反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

16

  一通りエーファが見た数分間の映像が空中で再現されると、たくさんの人がいるのに庭はまたも静まり返っていた。

 鳥人たちは興味深そうに、映像魔法で映し出され静止したものを触っている。水魔法と光魔法を組み合わせたものなので、触っても冷たいだけだ。

「以上です。これが証拠ではない捏造だと言われたらどうしようもないですが」
「こいつらはクビにする」

 母国では捏造できないことは分かり切っているから大丈夫なんだけどね。国が変わるとどうかな?

「も、申し訳ございません!」
「お許しを!」

 陰口というか軽口をたたいていた二人は土下座している。公爵家の使用人っておそらく他よりも給料いいよね。

「別にクビにしなくていいですよ。この国に来て早々に皆さんのお考えが分かって良かったです。それに、私が怒っているのはカエルを入れた人物に対してですから」
「いいのか、それで」

 ギデオンがいぶかし気にしてくるが、別に二人には大して怒っていない。クビにして逆恨みされても困るから、おとがめなしで味方にして情報引き出せたらいいかな。ギデオン狙ってたってわざわざ言ってたから使い道はある。ハニートラップって獣人にも効果あるのかな。

「あなたがベッドのシーツの中に毒を持つカエルを入れたんですか?」

 土下座する二人の前まで行って立たせると、男性使用人にエーファは向き直った。男は青い顔で首を振る。

「おかしいですねぇ」
「おい、誰がやった。何か知っている者がいたら今すぐに言え」
「あ、入れてなくてもカエルがベッドにいることは知ってましたよね? 私を案内しながらニヤニヤしてましたもんね?」
「そんなことはありません! ギデオン様の番様がやっと見つかったと嬉しくて!」

 ほんまかいな。自白させる魔法使えないしなぁ。あの魔法は専門性が非常に高い。

「こういう時って裁判でもするんですか?」
「基本的に家の主人が調べて処罰を下すって聞くっすね」

 いたたまれない空気でもしっかり返事をしてくれるハヤト。空気を一切読まない彼の存在は貴重だ。

「あとは潔白を示すために決闘」

 続いたハヤトの言葉にエーファは目を輝かせた。

「わぁ、じゃあ決闘しましょう! 私が勝ったら知っていることを全部吐いてください。そして関与してるなら処罰を受けてくださいね。あなたが勝ったら何のおとがめもなしで」
「エーファ!」
「私は馬鹿にされたんですよ? 弱っちい人間のお世話が嫌なら決闘でもしてみたらいいんですよね」
「エーファ、ちゃんとカエルの件は調べるから!」

 ギデオン、さっきまで唸るぐらいキレていたのに今は焦っている。

「大丈夫です。今、ここで、ケリをつけましょう。調べるまで待っていられません。調べている間にまた毒ガエルや毒グモ入れられたら困るの私ですから」

 軽口をたたいていた女性使用人二人に笑いかけたら、ドン引きされてしまった。

「あ、それとも旅で疲れている人間に勝てる自信がないんですか? 私、魔物を倒してきたんで魔力は普段より減ってます。それでも勝つ自信がないんですか? 皆さん、ほとんどオオカミ獣人なんですよね?」

 ミレリヤ、ごめんね。やっぱり大人しくなんて私にはできない。だって、許せない。

「私は遠いヴァルトルト王国から今日ドラクロアに来ました。家族とも急に離れてやってきたのに、魔物には襲われるわ、カエルは入れられるわ、お世話したくないと言われるわ」
「エーファ。それは俺が悪い。他種族の番は久しぶりだったから……本当に申し訳ない。該当の使用人はクビにして、あとは全員再教育する」
「あなたにその権限はないですよね。ドラクロアは強い者が偉い。そういう認識ですよね。じゃあ、手っ取り早く決闘しましょう。私が強かったらもう舐められないでしょう。弱かったら虐げられるだけ」
「いや、エーファは俺の番だ」
「でもあなたは使用人をきっちり束ねられていない。私とあなたが決闘でもしますか?」
「番と決闘などしない」
「じゃあ止めないでください。あ、あなたが審判では不公平ですよね。公爵様でも呼んできてもらえます?」

 公爵家の使用人たちは困惑して顔を見合わせ、鳥人たちは「面白くなってきたな」と完全に野次馬として楽しんでいる。


「面白いことをやっているね。決闘なら私も混ぜてくれるかな?」

 涼やかな声と一緒に場の空気が威圧的なものに変わる。
 公爵邸の塀に、暗めの紫色の長髪をいじる人物が座っていた。

「そこの陰口をたたいていたお嬢さん二人も入れて。私は人間のお嬢さんの側につこう。三対二。これなら三対一よりもよほど公平だ。他に参加者はいるかな? そこのマクミラン公爵の倅はどうする? どうやら、最近のオオカミは思い上がって相手を舐めてかかるようだね」

 この人の気配なんてずっとしなかった。こんな威圧的な気配、気付かない方がどうかしている。これだけの気配を隠せるのは相当の強者だ。

 長髪の人物は塀から軽やかに下りて、エーファの前まで来た。

「こんにちは。人間」
「エーファです」
「こんにちは。エーファ」

 その人物はエーファの右手を取ると、そっと指に口づけた。
 とりあえず、言いたいことはただ一つ。この人、誰ですか?
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