反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

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 別室に行っていた家族が国王と宰相とともに戻ってきた。獣人たちはいないのでエーファはほっとしたが、国王の発した言葉に絶望した。

「ドラクロア国とつながりができるのは大変喜ばしい。ドラクロア国の方々は番をとても大切にして溺愛していると聞く。三人にはドラクロア国に嫁いで両国の架け橋となってほしい」

 ほしいとは言っているものの、国王の言葉は命令だ。エーファは家族の顔を見たが、露骨に視線をそらされてしまった。

「君たちの現在の婚約は円満に解消となる。慰謝料や違約金などは契約書を交わしていてもかからん。これは国のためになることだからな。もし、彼らが次の婚約者に困る様なら王家がそこは手伝うと約束しよう。現在の竜王陛下の番様も他国の方ではあるが、人間だと聞く。君たちは安心して嫁いでくれたらいい」

 まだ国王はごちゃごちゃと何か言っていたが、エーファの耳には入らなかった。
 気付いたら家族に促されて、上機嫌な国王と宰相の前を辞して退室するところだった。

「これをきっかけにドラクロアとの貿易もスタートできますな」
「珍しい宝石や薬草も手に入るだろう」
「今、あの方々に確認しております。公爵家の方がいらっしゃるのが心強いですな。他のお二方は伯爵家と子爵家なのであまり力はお持ちでないようですが、公爵家ならば」

 国王と宰相のそんな会話が左から右へ抜けていく。

 前を歩いていたマルティネス様が心配そうにこちらを見ている。エーファは疲れ切っていたが、彼女に向かって軽く頷いた。

 結局、エーファたちはパーティー会場には戻れなかった。
 あの獣人たちの番がいるかどうか確認するパーティーだったのだ。他の参加者たちは新たな縁のためにまだ会場で談笑したり、踊ったり、食事をしたりしているようだ。
 楽しそうな声や漏れ聞こえる音楽を背にしてエーファたちは明日出発する準備のために帰らされた。

 今頃、エーファたちが番だったと発表されているだろう。家族はめったに田舎の領地から出ることもないので、この機会に縁をつなごうと会場に戻っている。きっとエーファのことをだしにして顔をつなぐのだろう。

 他の令嬢たちとは馬車に乗る前に別れた。一人で用意された馬車に乗って宿まで帰るのが、エーファはとんでもなく惨めだった。別室に連れていかれてからスタンリーにも会わせてもらえていない。宿で会って話すしかない。

 エーファの家は貧乏なので、王都にタウンハウスを構え維持するほどのお金がない。スタンリーの家もそうだ。

「何でこんなことに……」

 用意された馬車は非常に乗り心地が良くて豪華だった。でも、そんなことはどうでもよくなるくらいエーファはみじめだった。

 数時間前の馬鹿でお気楽な自分に戻りたい。
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