反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

7

 オウムがまた飛び去って帰ってきた後、エーギルに連れられて十三隊がいるという別の訓練場に行く。えらく隅の訓練場だ。

「獣人でも鳥人でも、一から七までがエリートと言われる部隊だ」
「エリートねぇ。あとは普通ってこと?」
「あとは男爵・子爵と下位の家の者だったり、平民だったりだ」

 爵位で大体決まるってことね。訓練場の位置も不便なところにあると。

「十から十三は最も魔物の出現が多い地域に出向く隊なんだが、その中でも十三隊は曲者揃いだ」
「あのままギデオンの隊にいるよりはマシだよ」
「今のあいつなら理由をつけてどこにも出さないだろうな」
「隊は実力順ってわけじゃないの? 一が一番強いとか」
「実戦でいえば、十三の方が実戦向きだ。泥臭い戦い方だな」

 十三隊がどんな隊かまだ分からないけど、ギデオンがまたギャーギャー言うんだろうな。なんでいちいちあんな奴に行動制限されなきゃいけないんだろうか。

「あれが十三隊だ」

 まだ距離があるが、隊員同士が二人一組になって取っ組み合っている。

「大きいわね」
「ハイエナ獣人はでかい。小さいのはコヨーテ獣人だ」
「へぇぇ」

 髪色はライトブラウンやモカ色がほとんどだ。なんだか安心する。ギデオンやエーギルたちはどうも高位貴族くさい。事実、彼らは高位貴族なのだが傲慢さが透けて見えるというか、もちろん気高さもあるだろうが。
 人間の平民に近い色合いを見ると、どうしようもなく安心した。竜人といい人間離れした美貌を見過ぎていると感覚がおかしくなる。

「なんだぁ。エーギル」

 ひときわ大柄な獣人がエーギルとエーファに気付いてニヤニヤしながら近づいてきた。

「また始末書書けってか?」
「いや、人間の件だ。さっきオウムを飛ばしただろう」

 始末書って……何したんだ。

「そのチンチクリンが魔法を使えるっていう?」
「あぁ、そうだ」
「ギデオンの番だろ? あいつはもっとボインが好きなのかと思ってたぜ。ああいうすかした野郎ほどドスケベだからな」
「女性の前だ。口をつつしんでくれ、ハンネス隊長」

 悪かったですねぇ、つるぺたで。ハンネスの視線はエーファの胸元にある。

「へーへー。あの炎、こっからも見えたぜ。確かに黒い髪の女が浮いてたな。で? どいつを殺ったんだ?」

 ハンネスは相変わらずニタニタ下品な表情を浮かべている。

「訓練だから殺しているわけないだろう。隊員のアリスが舐めてかかったんだ」
「あぁ、あのいけ好かない女か。ギデオンにホの字の女だろ。そりゃあいい仕事をしたな」
「火傷はしていたが」
「ヒュウ! お嬢ちゃん、あんたとは仲良くできそうだぜ」

 二メートルはあるハンネスから急に肩を掴まれる。うん、なんか……貴族っぽくなくてむしろ平民に近いから仲良くできそうだ。

「よろしくお願いします」
「お嬢ちゃん。俺たちは最も危険な地帯に行くんだ。だから、足手まといなら容赦なく森に置いていく。んで、そのまま死んでも知らん」
「あ、はい」

 髪と同じブラウンの目が高さを合わせてエーファを見据える。柄悪そう、いやワイルドな隊長である。いいね、こういう貴族っぽさがないのって。非常に明け透けだ。

「あと、この前俺たちが食えなかったブラックバードを食わしてくれ。討伐したら、うちの隊のもんだ。食える。うまい肉を食わせろ。そうしたら認められる」
「え?」
「お嬢ちゃんが討伐したブラックバード。ギデオンの家で食ったんだろ? あれ以来、鳥人部隊がブラックバードを狩っても譲ってくれねぇんだ。今まではマジイからって見向きもしなかったのによ。俺たちは労力なくうまい肉をこっそりがっつり食ってたわけだ」

 あー、鳥人部隊とブラックバードの肉を食べたせいか。ハイエナやネズミの獣人しか食べないって言ってたもんね。

「この前もらったのはカナンのバカが銃弾を急所以外に撃ち込んでやがったからな。クソまずかった。あのへたくそ」
「一発で仕留められずに……すみません?」
「うまいブラックバードを期待してる。むしろお嬢ちゃんはそれがメインだ。地上は俺たちでいけるが空中は無理だ」

 掴まれた肩がめちゃくちゃ痛い。力強いなこの人。

「分かりました」
「よろしくな、エーファ」

 ハンネスの後ろで他の隊員たちも激しく頷いている。大丈夫なのかな、この隊。
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