反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~
第六章 愛の被害者

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 休みが欲しい。切実に。

「お初にお目にかかります。オウカ・マキシムスと申します」
「エーファ・シュミットと申します。よろしくお願いします」
「エーファ様、あなたは私に頭を下げてはなりませんよ」

 休みが欲しい。本当に切実に。
 厳密に言えば今日は休みなのだが、エーファはギデオンと一緒に一人の女性に対面していた。ギデオンは後方彼氏面しているだけ。

「ドラクロアの歴史やマナーなどをエーファ様に指導するということでしたね?」
「あぁ、そうだ。この国で生きていくのに人間が必要な知識だな」
「はい。では早速始めましょう。ギデオン様はお仕事がおありでしょうから退室してもらって結構ですよ?」
「いや、だがエーファの勉強の進み具合は知っておく必要がある」
「それでしたら毎回報告書を上げます。今日は初回ですので諸々の確認とスケジュールを組むのみとなります。あとは私を信頼していただくこと。ものを教えるにあたって一番大切なのは信頼です。ということでリラックスしてお茶でもしましょう」

 美人でグラマーで、笑顔に異様な威圧感のある女性である。
 この人は獣人・鳥人ではなく、人間だ。宰相であるゾウの獣人トリスタン・マキシムス伯爵の奥様なんだそうだ。人間だけの国でもそうだが、宰相の妻となると一筋縄ではいかない雰囲気だ。

 彼女はドラクロアの東の国セイラーン王国の出身。エーファの母国とは距離がかなり離れており、しかも鎖国的な文化を持つのであまり彼女の国について知らない。

「だが、エーファも一人で心細いだろう」

 いえ、一ミリも心細くなどないのです。なんたって私、十三隊で今のところうまくやってますから。

「私はマクミラン公爵からの頼みということで、夫から言われてこちらに来ました」

 宰相の奥様を呼びつけるなんて公爵家らしい。
 もしかして、私かなり勉強できないって見積もられてる? 相当ワガママでじゃじゃ馬だとか?

「そのため、ギデオン様の注文を聞く義理はございません。あなたはまだ爵位をついでいらっしゃらない。つまり立場としては私の方が上です。番を監視する前にやることがあるのでは?」

 怖っ! しかし、事実なのかギデオンは顔をしかめて「監視じゃない」とつぶやきつつ俯いた。

「どう見ても監視でしょう。エーファ様はドラクロアに入国されて日が浅いですが、竜王陛下の番様の話し相手となり実力で十三隊に入隊も果たしておられます。これほどまでにこの国のため努力している番のため、監視したり執着したりするよりもギデオン様も何か努力をされるべきではありませんか? 例えば、逃げ回っている書類のお仕事ですとか」

 こ、怖っ! こんなにハッキリ言っていいの? ギデオンってずっと偉そうだけど、公爵家の嫡男だから偉いんだよね?

「マクミラン公爵も早く奥様を空気のいいところで療養させたいでしょうに。なのに、息子は番を探しに行って連れ帰ったはいいものの相変わらずのヘタレっぷり。父親と違って武勲を立てるわけではなく単に部隊を率いるだけ。次期公爵としての自覚に目覚めるわけでもない。女の尻を追いかけまわすただの犬に慣れ果てておられます。エーファ様、お口は閉じてくださいませ」

 オウカのあまりの辛口っぷりにエーファの口は知らず知らずのうちに開いていた。慌てて閉じる。

「番に出会ったのだから仕方がないだろう」
「まぁ失礼ですわ。夫は私の嫌がることはどのステージでもしませんでした。番としての衝動に理性で打ち勝ってくれましたわ。それこそが本当の愛ではありませんの? 番の香りに支配されて下半身でしかものを考えられないうちはまだまだひよっこ。可愛い子犬ちゃんでしてよ。男の風上にも置けませんわ」

 エーファはまた口が開きかけたが、根性で閉めた。これは、私の教育ではなくギデオンの教育なのだろうか。

「ということでさっさと出て行ってもらえます?」

 オウカ・マキシムスの第一印象は最高だった。
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