反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

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 ブチっと根ごと植物を採取して、空間に入れる。今日は番紛いの素材がたくさん集まった。レピウスの実にラコンの根、今のはオウギソウだ。

「エーファ、そっちは済んだか?」
「はい、オッケーです」

 ずるずる倒した魔物を引きずってハンネス隊長とキーンが現れた。今日は大きなトカゲのような魔物だ。名前何だっけ、ブラックコモドオオトカゲだっけ。

「ライオン獣人たちに横取りされねぇから狩りがいがあるな」
「本当です。今までどれだけ横取りされてきたか」
「エーファも終わったんなら帰るか。これと空間に三体入ってるだろ?」
「はい。大物が二体と中くらいが一体」
「じゃあもう十分だな」

 喋りながら、リヒトシュタインが降りてきて以来ライオン獣人が横取りに来ていない集合場所まで歩く。

「にしてもブラックバード見ねぇな」
「鳥人部隊も目撃していないようです」
「ジンメンバードはどんなに料理してもまじぃからな。どうせ食べるならブラックバードがいい」
「オオトカゲも美味しいですよ」
「本当か?」
「今日採ったハーブがあるので、一緒に料理すると美味しいですよ」

 安心はしないまでも、注意は怠っていないはずだった。エーファは索敵魔法を展開していたのに、なぜかそれは引っ掛からなかった。

「お、もうだいぶ集まってんな」
「皆、狩りがいがあるのではないでしょうか」

 急に大きな影が地面にできた。パリンと結界が割れる音がする。

「え?」

 エーファが声を上げたのと同時に、隣を歩いていたはずのキーンの姿が消えた。

「上だ!」

 ハンネス隊長が襲い掛かろうとしたブラックバードの足を切り落とす。

「ギヨォェェェェ!」
「撃て! キーンが攫われた!」

 聞き覚えのある悲鳴が上がってブラックバードが空高く飛び上がる。襲ってきたブラックバードは全部で三体。そのうちの一体が足でキーンを掴んでいる。集合場所にいた隊員たちが一斉に銃やボーガンを撃ったが、掠っただけで致命傷にはならなかった。

「索敵魔法に引っ掛からなかったなんて!」
「隊長! あれを!」
「ブラックバードの大群です!」
「ちぃっ! なんで急に!」

 ハンネス隊長は空に向かって銃を何発か撃った。

「襲ってくるぞ! 撤退しろ!」

 なんで? どうして索敵魔法に引っ掛からなかった? 変異種?
 それに結界が一撃で壊れた。接近に全く、三人とも気付かなかった。

「エーファ! もたもたすんな! 俺たちじゃ分がわりぃ!」
「キーンさんはどうするんですか?」
「もう上空だ! 鳥人部隊じゃねーと対応できねぇ。あいつらは巣に持ち帰ってから獲物を食うから巣に戻るまでが勝負だ!」

 走り始めながら、身体強化をかけようとして――。エーファは気付いた。

「私が囮になります!」
「あぁ!?」
「竜の香りがついてますし、人間ですし、空中で応戦できます。身体強化しても隊長たちに追いつくのやっとなんで! 今日は銃も持ってますから!」
「てめぇ、ふざけてんのか! 空中はあいつら鳥野郎の戦場だぞ! それにまずキーンを攫ってんだ! あいつら人間だけじゃなく獣人も平気で食うんだよ!」
「みなさんはジグザグに走って逃げてくださいね!」
「話聞けよ!」

 ハンネス隊長に服を掴まれる前にエーファは風魔法を使って飛び上がった。

「じゃあ、後ほど!」
「おい!」

 先に襲い掛かってきた三体をすぐ追いたいが、後続のブラックバードが多すぎる。

「ちょっとでもあの黒いでかい鳥を減らさないとね」

 ブラックバードは炎系の魔法に耐性がある。でも、あくまで耐性があるだけだ。火力を上げたら攻撃は通る。そしてエーファが最も得意とするのは火魔法だ。

 あーあ。また変に意地張っちゃって。あのまま身体強化かけてハンネス隊長たちと一緒に逃げてれば逃げ切れたかもしれないのに。鳥人部隊がいつ来るか分からないから、その場合はキーンさんはバリバリとブラックバードに食べられてしまうかもしれないし、十三隊の隊員も何人か攫われて食べられるかもしれない。

 番紛いの素材はあと三つなのに。ここで自分が死んだら全部台無しじゃない?
 この前、自分の目的を全うしようって決意したはずなのに。何でこんな無謀なことを。

 手のひらを軽く重ねてブラックバードの群れに向ける。
 私は我儘なのだ。番紛いを完成させてギデオンに飲ませてスタンリーのところに帰りたいし、キーンさんには死んでほしくないし、十三隊の他の隊員たちにも怪我をしてほしくない。そして、生きて帰りたい。

 手のひらが小刻みに震えている。本当に我儘な上にバカだ。でも後悔はしてない。最も得意な魔法でいこう。

「人間舐めないでよね!」
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