反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~
7
階段の踊り場に立って使用人たちを見下ろした。
計画を立ててはいたが、これほどうまくいくとは思っていなかった。それだけエーファが軽んじられているということだろう。
「リヒトシュタイン殿下からいただいたものが部屋からなくなったの。これから犯人を探すわ」
エーファの言葉に驚いた顔をした者が大半。
「犯人を見た者は教えてちょうだい。礼をするわ。あるいは今、自分が犯人だと名乗り出るなら罰は軽くしてあげる」
エーファの言葉に使用人たちは顔を見合わせるが、誰も何も発言しない。
エーファは階段を下りて最前列に並んでいた使用人たちの顔を眺めた。この屋敷に連れてこられた初日に洗濯物を干しながら噂話をしていた女性の使用人もいる。愛人を狙っていたと言っていたあの使用人だ。エーファは思わず笑顔になった。
「誰も何も言わないなら仕方がないわね」
女性使用人の髪をぐいっと掴む。ブチブチと何本か抜けた感触がした。
「ひっ!」
その女性ではなく後ろの使用人が悲鳴を上げた。遅れて女性も悲鳴を上げる。エーファが女性の髪の毛を燃やしたからだ。
「番様! 何を!」
執事長がエーファの腕を掴もうとしてくるが、そんな行動は分かり切っていたので張っておいた結界に弾かれた。
「言ったでしょ。誰も何も言わないなら仕方がないって。私の部屋に置いておいたものが少し外出して帰ってきたらなくなっていた。ということは使用人の誰かが犯人でしょう」
最前列にいた使用人たちの服に火をつける。立ち上がって逃げようとするので炎を出して全員取り囲んだ。
「早く白状しないと、クロックフォード伯爵邸みたいになるかもしれないわね」
「番様! おやめください!」
「ドラクロアでは強い者が偉いんでしょ? 私の部屋から物を盗るということは、私は舐められているということ。じゃあ思い知らせるしかないじゃない。ここにいる使用人全員焼き殺しても私は困らないわよ? 自分のことは自分でできるもの」
ギデオンは仕事で不在。マクミラン公爵は付き合いが多いので外出しているか、夫人のところにいるかのどちらか。公爵は夫人にしか興味がないようなので家にいても問題ない。
弟のシュメオンとは初日以降ほとんど会わないが、今は二階から一階の阿鼻叫喚をのぞいている。子供の教育上よろしくはないが、エーファの大切な人ではないので放っておく。
「誰も白状しないなら全員焼き殺すわね」
「こいつです! こいつがやりました!」
一人が男性使用人を指差し、他の使用人たちもそれに追随する。
「何を盗んでいたの?」
「え?」
「私の部屋から何を盗んでたのと聞いてるんだけど。目撃したんでしょ?」
「そんなことよりっ! 白状したんだから火を消してください!」
「嘘つきな上にうるさい。何なの、平気で同僚を売るとか」
最初に声を上げた使用人に向かって火を放つ。
エーファは意外と冷静に自分を分析していた。
セレンのことで相当ストレスがたまっていたに違いない。いや、ストレスの限界だと分かったのがセレンの事件であるだけで本当は毎日ストレスだった。獣人の人間を舐めた態度。人間になら何をしてもいいというような行動。
さらに言えば、使用人の質が悪すぎる。公爵夫人が臥せっていることと、家をあけがちな公爵とギデオン。使用人たちはこの家で好き勝手してきたのだろう。
シュメオンはまだ小さくて大して役に立たず、エーファは人間。完全に舐めていたはずだ。だからこんなことができるのだ。初日といい今日といい。人間を舐めるのも大概にしろよ。
エーファは執事長と侍女頭に向き直る。二人がビクリと体を震わせた。
「どうやら誰も白状しないようだからあなたたちにも死んでもらうわね?」
「わ、私が盗みました」
震えながら白状したのは侍女頭だった。ポケットから虹色の花を取り出す。
「掃除のときに見つけて……珍しく綺麗な花だから病気の孫に……見せようと……」
「そんな理由で私から盗んでいいと思ったってこと?」
イーリスをひっつかんで取り返して、今度は侍女頭の顔を掴む。
「ギャアアアア!」
侍女頭の顔を半分だけ焼くように火を調整した。正直、魔物に攻撃する方がまだエーファには躊躇があっただろう。
侍女頭を床に投げ捨てると、指を振って大量の水を使用人たちにかける。
イーリスと抜いた髪の毛をポケットに入れてから周囲を見回すと、無傷で立っているのは執事長だけだ。あとは全員床にうずくまって恐怖を宿した目でエーファを見ている。
「私のことを舐めきって盗むからよ。最初から彼女が白状していればあなたたちもそんな風にならなくて良かったのにね」
そこまでひどくはないが火傷している使用人たちに笑いかけると、彼らはずりずりと後退った。
「ギデオンに言いたかったら言えばいいわ。別に私は困らないから。ただ、私の部屋の掃除はこれから自分でするからもう誰も入らないでね。この屋敷ではいつ何を盗まれるかわからないもの。良かったわねぇ、仕事が減って」
セレン、ミレリヤ。やっぱり、私はドラクロアのすべてが許せない。
「あぁ、文句があるなら今かかってきて。あとで相手するの面倒だから」
見回して聞くが誰もかれも視線を落として俯いた。執事長も何も言ってこない。
「あなたは?」
執事長に再度問いかけると大きく首を振る。誇り高きオオカミも火の前では形無しなわけね。
ここまで派手に暴れておけば目くらましになるでしょう。これで部屋で番紛いが作れる。
計画を立ててはいたが、これほどうまくいくとは思っていなかった。それだけエーファが軽んじられているということだろう。
「リヒトシュタイン殿下からいただいたものが部屋からなくなったの。これから犯人を探すわ」
エーファの言葉に驚いた顔をした者が大半。
「犯人を見た者は教えてちょうだい。礼をするわ。あるいは今、自分が犯人だと名乗り出るなら罰は軽くしてあげる」
エーファの言葉に使用人たちは顔を見合わせるが、誰も何も発言しない。
エーファは階段を下りて最前列に並んでいた使用人たちの顔を眺めた。この屋敷に連れてこられた初日に洗濯物を干しながら噂話をしていた女性の使用人もいる。愛人を狙っていたと言っていたあの使用人だ。エーファは思わず笑顔になった。
「誰も何も言わないなら仕方がないわね」
女性使用人の髪をぐいっと掴む。ブチブチと何本か抜けた感触がした。
「ひっ!」
その女性ではなく後ろの使用人が悲鳴を上げた。遅れて女性も悲鳴を上げる。エーファが女性の髪の毛を燃やしたからだ。
「番様! 何を!」
執事長がエーファの腕を掴もうとしてくるが、そんな行動は分かり切っていたので張っておいた結界に弾かれた。
「言ったでしょ。誰も何も言わないなら仕方がないって。私の部屋に置いておいたものが少し外出して帰ってきたらなくなっていた。ということは使用人の誰かが犯人でしょう」
最前列にいた使用人たちの服に火をつける。立ち上がって逃げようとするので炎を出して全員取り囲んだ。
「早く白状しないと、クロックフォード伯爵邸みたいになるかもしれないわね」
「番様! おやめください!」
「ドラクロアでは強い者が偉いんでしょ? 私の部屋から物を盗るということは、私は舐められているということ。じゃあ思い知らせるしかないじゃない。ここにいる使用人全員焼き殺しても私は困らないわよ? 自分のことは自分でできるもの」
ギデオンは仕事で不在。マクミラン公爵は付き合いが多いので外出しているか、夫人のところにいるかのどちらか。公爵は夫人にしか興味がないようなので家にいても問題ない。
弟のシュメオンとは初日以降ほとんど会わないが、今は二階から一階の阿鼻叫喚をのぞいている。子供の教育上よろしくはないが、エーファの大切な人ではないので放っておく。
「誰も白状しないなら全員焼き殺すわね」
「こいつです! こいつがやりました!」
一人が男性使用人を指差し、他の使用人たちもそれに追随する。
「何を盗んでいたの?」
「え?」
「私の部屋から何を盗んでたのと聞いてるんだけど。目撃したんでしょ?」
「そんなことよりっ! 白状したんだから火を消してください!」
「嘘つきな上にうるさい。何なの、平気で同僚を売るとか」
最初に声を上げた使用人に向かって火を放つ。
エーファは意外と冷静に自分を分析していた。
セレンのことで相当ストレスがたまっていたに違いない。いや、ストレスの限界だと分かったのがセレンの事件であるだけで本当は毎日ストレスだった。獣人の人間を舐めた態度。人間になら何をしてもいいというような行動。
さらに言えば、使用人の質が悪すぎる。公爵夫人が臥せっていることと、家をあけがちな公爵とギデオン。使用人たちはこの家で好き勝手してきたのだろう。
シュメオンはまだ小さくて大して役に立たず、エーファは人間。完全に舐めていたはずだ。だからこんなことができるのだ。初日といい今日といい。人間を舐めるのも大概にしろよ。
エーファは執事長と侍女頭に向き直る。二人がビクリと体を震わせた。
「どうやら誰も白状しないようだからあなたたちにも死んでもらうわね?」
「わ、私が盗みました」
震えながら白状したのは侍女頭だった。ポケットから虹色の花を取り出す。
「掃除のときに見つけて……珍しく綺麗な花だから病気の孫に……見せようと……」
「そんな理由で私から盗んでいいと思ったってこと?」
イーリスをひっつかんで取り返して、今度は侍女頭の顔を掴む。
「ギャアアアア!」
侍女頭の顔を半分だけ焼くように火を調整した。正直、魔物に攻撃する方がまだエーファには躊躇があっただろう。
侍女頭を床に投げ捨てると、指を振って大量の水を使用人たちにかける。
イーリスと抜いた髪の毛をポケットに入れてから周囲を見回すと、無傷で立っているのは執事長だけだ。あとは全員床にうずくまって恐怖を宿した目でエーファを見ている。
「私のことを舐めきって盗むからよ。最初から彼女が白状していればあなたたちもそんな風にならなくて良かったのにね」
そこまでひどくはないが火傷している使用人たちに笑いかけると、彼らはずりずりと後退った。
「ギデオンに言いたかったら言えばいいわ。別に私は困らないから。ただ、私の部屋の掃除はこれから自分でするからもう誰も入らないでね。この屋敷ではいつ何を盗まれるかわからないもの。良かったわねぇ、仕事が減って」
セレン、ミレリヤ。やっぱり、私はドラクロアのすべてが許せない。
「あぁ、文句があるなら今かかってきて。あとで相手するの面倒だから」
見回して聞くが誰もかれも視線を落として俯いた。執事長も何も言ってこない。
「あなたは?」
執事長に再度問いかけると大きく首を振る。誇り高きオオカミも火の前では形無しなわけね。
ここまで派手に暴れておけば目くらましになるでしょう。これで部屋で番紛いが作れる。