反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~
第八章 番紛い

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「それは何に使うんだ」

 やっと見つけたチェサレの葉を何枚かブチブチちぎったところで影がさす。最後の番紛いの材料を見つけた高揚感を無理矢理抑えて顔を上げる。

「これは解熱剤の材料になるってどこかの薬草辞典で見たので」
「熱出すやつなんていねーだろ」
「いや、いるでしょ」
「俺は用はねぇな」

 ハンネス隊長に返事をしながら空間に葉を入れて立ち上がる。

「そういやぁ、お前。マクミラン公爵家の使用人焼き殺したんだって?」
「殺してはいません。半分顔を焼いたり、火傷させたりしただけです」
「そうか? 丸焼きにして殺したってウワサになってたぞ」
「ウワサも何も。隊長は私に聞けばすぐ分かるじゃないですか」
「他の隊の隊員たちがビクビク怯えてんのおもしれーから放置してる」

 あぁ、ウワサが出回っているからあんなによそよそしい態度を取られるのか。人間だからかと思ってた。

「ギデオンは怒ってませんでしたから大したことじゃないのかと。公爵様も何もおっしゃいませんでした」

 ただ、エーファの部屋から盗んだのと同じようなことを公爵邸でやっていないか調査はした方がいいとは進言しておいた。侍女頭がやってるなら他の使用人だって怪しいけど。それに侍女頭は公爵夫人の世話もしていたはずだ。公爵夫人の部屋からも何か盗っているかもしれない。ギデオンは顔色を変えて調査すると言っていたから、ギデオンの目はかなりそらすことができるんじゃないだろうか。

「そこは怒らねぇよ。殿下からいただいたものを盗む奴が悪いし、そもそも使用人が盗み働いたらいけねぇだろ」
「隊長が正論を言うなんて」

 後からやってきたキーンがじんわり感動している。屋敷の一部が明らかに焦げているのに公爵はスルーだから、大丈夫なのだろうかマクミラン公爵家は……と思っていたところだ。

「その調子で書類を片付けて、会議でも寝ないでください」
「会議はエリートがバカな寝言くっちゃべってるだけなんだから起きてるのが異常なんだよ」
「ここ数日は魔物が少ないですね」
「あぁ、この前が一時的に多かっただけだな。変異種がいなかったのが幸いだ。この前みたいなステルス機能もってるのがわんさか出てきたらマズイ」

 以前大量に現れたブラックバードのうち生け捕りにした二体はステルス機能を保有している変異種だった。索敵魔法にもひっかかりにくく、隊員からもみつかりにくい。
 変異種は基本的に変異によって現れるので数体一斉に現れることは考えにくい。参謀部隊の面々がなぜ一気に変異種が現れたのか首をひねっているようだ。

「そうだ。今朝、変異種二体死んでたらしいぜ」
「はい? あの生け捕りにしたブラックバード二体ですよね? キーンさんをさらった奴」
「そうだ。今日世話しに行ったら二体とも死んでたらしい。まだ調べたいことがあったのにって朝から参謀部隊では閣下がお怒りだ」
「死んだってことは魔物の世話って難しいんですかね?」
「まぁ、そうだな。キーン、あっちを見回って来てくれ。魔物がこんなに出ねぇなら今日はこれであがりだ」

 キーンが向こうに消えていくのを確認してから、ハンネス隊長は声を潜めた。

「お前のおかげで生け捕りにできてた部分もあるから言うが。どうやら変異種ブラックバード二体は殺されてたらしい」
「自然死や餓死じゃないんですか」
「あぁ、刀傷があったってよ。これは内緒だからな。犯人はまだ分かってねぇから誰にも言うなよ」

 せっかく番紛いの材料が全部そろったのに、不穏な情報を聞いてしまった。もしかしてオウカが関わっているのだろうか。実害はないが、怪しいことはチラチラ言っているし。

 障害は一つずつなくなっているはずだ。番紛いの材料だって全部揃ったのに。前を向いているはずなのに。
 周辺に生えている薬草を採取しながらエーファの心の靄は晴れなかった。
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