反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~
2
「あの魔物たちを無傷で倒したんですか」
後ろから現れたハンネス隊長に、キーンはほんの少しだけ目を見開いている。
「でかいのが一気に来たらさすがにきついな。俺一人じゃ無理だっただろうな」
エーファのところまでやってきたハンネス隊長は不敵に笑うが、彼の後ろから誰か現れる様子はない。
「ハッタリですか」
「そうじゃねぇよ。それはそうと、キーン。てめぇに逮捕状が出てる。生け捕りにしてあった変異種のブラックバード殺しただろ」
エーファは状況が読めずに二人を交互にじっと眺めることしかできない。キーンが裏切者というか、オウカの計画に同調しているらしきことは分かったのだが変異種の魔物を殺したってどういうこと? あのブラックバードの話よね。
「他種族の臭いをわざわざつけてやったのに気付くとはさすがですね」
「あと、情報を番反対派に流したな」
「あなたが書類を片付けないから簡単でしたよ。それと訂正しますが、我々は番反対派などという低俗なグループではありません」
隊長はいつから分かっていたのか、怖いほど冷静でいつも通りだ。
「番反対派を隠れ蓑に活動してんだから変わらねぇだろ。むしろ、表立ってちゃんと活動してるあいつらの方が正しいんじゃねぇか?」
淡々としていたキーンの雰囲気がピリッと変わる。オウカをバカにされるのが嫌なのだろうか。
「そこで大人しくしてるブラックバードだって調教したんだろ? ま、ブラックバードくらいしか調教できないつーか。変異種の増加だってお前らの仕業だろうが、実験ばっかりしやがって」
キーンの隣で大人しくしているブラックバードの足を見る。以前見たのと同じように小指が僅かに切断されていた。
もしかして目印? 調教か変異種の目印だったの? ブラックバードが変異させやすかったってこと?
「私が情報を流していると知っていたなら、なぜずっと隊に置いていたんですか?」
「別にお前の思想なんてどうでも良かったんだよ。番に賛成だろうが反対だろうが何だろうが。重要な書類は片付けといたし。だが、俺の家族や部下に被害があるなら話は別だ」
「私もあなたの部下のはずですが。エーファさんよりも遥かに長く」
「お前は俺の部下っつうよりもオウカ・マキシムスの犬だっただろうが。それに、やべぇ計画を実現に移そうとしてんなら潰す。正直、コソコソ魔物の変異させてる奴らに大それたことができるなんて思ってないけどな」
ブラックバードの小指を指摘した時に宰相は「ドラクロアの問題」と言わなかっただろうか。彼はずっと妻のやろうとしていることに気付いていたということ?
隊長とキーンの話が本当なら、オウカは魔物を変異させてドラクロアの獣人・鳥人を殺そうとしてたってことになる……でも、手に負えないスタンピードの時は竜王陛下が介入したのよね。竜人が介入したら終わりだと思うんだけど。なぜ、このタイミングで?
隊長の腕の一部が獣化した。キーンが「行け」と叫ぶと、ブラックバードが口を開いてエーファにまっすぐ向かってくる。
「あ!」
うっかり反射で最も得意な火魔法を放ってしまった。ブラックバードは火魔法に耐性があるのに。初級魔法程度の火ではほぼノーダメージだ。
「おい!」
キーンの攻撃を受けている隊長が焦った声を出す。ブラックバードの攻撃を避けながら雷魔法に切り替える。
バチチッという音が響くが、ブラックバードの嘴が結界を壊す方が早かった。体はそこまで大きくないのに結界を何枚も破るとはパワーが普通の個体より強い。避けるのが間に合わない! 嫌なイメージが頭をよぎった時だった。
鮮やかな青がブラックバードとエーファの間に強引に割って入る。
押されて思い切り地面に倒れたエーファが慌てて体勢を整えると、パアンと至近距離で銃声がした。
「なんで」
声がうまく出ない。
「次が来るかもしれないから油断するな」
銃で撃たれてすでに事切れたブラックバードに腕を噛まれて負傷しているにも関わらず、冷静な声だ。
「なんであんたがいるの」
「詠唱の準備を。俺でも時間くらいなら稼げる」
ずるっとブラックバードの嘴から血だらけの腕を引き抜きながら、エーギルはこともなげに言った。
後ろから現れたハンネス隊長に、キーンはほんの少しだけ目を見開いている。
「でかいのが一気に来たらさすがにきついな。俺一人じゃ無理だっただろうな」
エーファのところまでやってきたハンネス隊長は不敵に笑うが、彼の後ろから誰か現れる様子はない。
「ハッタリですか」
「そうじゃねぇよ。それはそうと、キーン。てめぇに逮捕状が出てる。生け捕りにしてあった変異種のブラックバード殺しただろ」
エーファは状況が読めずに二人を交互にじっと眺めることしかできない。キーンが裏切者というか、オウカの計画に同調しているらしきことは分かったのだが変異種の魔物を殺したってどういうこと? あのブラックバードの話よね。
「他種族の臭いをわざわざつけてやったのに気付くとはさすがですね」
「あと、情報を番反対派に流したな」
「あなたが書類を片付けないから簡単でしたよ。それと訂正しますが、我々は番反対派などという低俗なグループではありません」
隊長はいつから分かっていたのか、怖いほど冷静でいつも通りだ。
「番反対派を隠れ蓑に活動してんだから変わらねぇだろ。むしろ、表立ってちゃんと活動してるあいつらの方が正しいんじゃねぇか?」
淡々としていたキーンの雰囲気がピリッと変わる。オウカをバカにされるのが嫌なのだろうか。
「そこで大人しくしてるブラックバードだって調教したんだろ? ま、ブラックバードくらいしか調教できないつーか。変異種の増加だってお前らの仕業だろうが、実験ばっかりしやがって」
キーンの隣で大人しくしているブラックバードの足を見る。以前見たのと同じように小指が僅かに切断されていた。
もしかして目印? 調教か変異種の目印だったの? ブラックバードが変異させやすかったってこと?
「私が情報を流していると知っていたなら、なぜずっと隊に置いていたんですか?」
「別にお前の思想なんてどうでも良かったんだよ。番に賛成だろうが反対だろうが何だろうが。重要な書類は片付けといたし。だが、俺の家族や部下に被害があるなら話は別だ」
「私もあなたの部下のはずですが。エーファさんよりも遥かに長く」
「お前は俺の部下っつうよりもオウカ・マキシムスの犬だっただろうが。それに、やべぇ計画を実現に移そうとしてんなら潰す。正直、コソコソ魔物の変異させてる奴らに大それたことができるなんて思ってないけどな」
ブラックバードの小指を指摘した時に宰相は「ドラクロアの問題」と言わなかっただろうか。彼はずっと妻のやろうとしていることに気付いていたということ?
隊長とキーンの話が本当なら、オウカは魔物を変異させてドラクロアの獣人・鳥人を殺そうとしてたってことになる……でも、手に負えないスタンピードの時は竜王陛下が介入したのよね。竜人が介入したら終わりだと思うんだけど。なぜ、このタイミングで?
隊長の腕の一部が獣化した。キーンが「行け」と叫ぶと、ブラックバードが口を開いてエーファにまっすぐ向かってくる。
「あ!」
うっかり反射で最も得意な火魔法を放ってしまった。ブラックバードは火魔法に耐性があるのに。初級魔法程度の火ではほぼノーダメージだ。
「おい!」
キーンの攻撃を受けている隊長が焦った声を出す。ブラックバードの攻撃を避けながら雷魔法に切り替える。
バチチッという音が響くが、ブラックバードの嘴が結界を壊す方が早かった。体はそこまで大きくないのに結界を何枚も破るとはパワーが普通の個体より強い。避けるのが間に合わない! 嫌なイメージが頭をよぎった時だった。
鮮やかな青がブラックバードとエーファの間に強引に割って入る。
押されて思い切り地面に倒れたエーファが慌てて体勢を整えると、パアンと至近距離で銃声がした。
「なんで」
声がうまく出ない。
「次が来るかもしれないから油断するな」
銃で撃たれてすでに事切れたブラックバードに腕を噛まれて負傷しているにも関わらず、冷静な声だ。
「なんであんたがいるの」
「詠唱の準備を。俺でも時間くらいなら稼げる」
ずるっとブラックバードの嘴から血だらけの腕を引き抜きながら、エーギルはこともなげに言った。