反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

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「おい死んでるじゃねぇか。竜人が降ってくるなんて誰が予想できんだよ」

 ハンネス隊長は意識を取り戻し、キーンの亡骸を見て悪態をついている。
 エーギルは発砲によって死んだブラックバードをしげしげ調べてから戻ってきた。

「はぁ。死んだなら仕方ねぇ」
「何も情報を抜けませんでしたね」
「キーンがあっち側の奴だって確定しただろ。あとは番反対派の中でも過激なのがどんだけいるかだな」
「メンバーのあぶり出しよりも、魔物の襲撃に備えた方が早くないですか」
「鳥人部隊が頑張るだろ。オウカ・マキシムスの行方も分からん事だしそっちも探さねぇと」
「え?」

 思わずエーファは二人の会話に口を挟んだ。

「なんだ?」
「いえ、彼女には昨日会ったばかりだったので」
「それから足取りがつかめねぇんだよ」
「彼女が何かしたんですか?」
「したと言えばした。まだしていないと言えばしてない」
「どういう意味ですか」
「お前だって勧誘されたんだろ」
「そうですけど……詳しくは話してくれませんでしたよ。というか、私では理解できませんでした」
「オウカ・マキシムスは番反対派のトップだ」

 エーファは首を傾げる。番反対派と言われてもエーファが知っていることは純血主義ということくらいだ。オウカはそれよりももっと物騒なことを言っていたが。

「もともと番反対派はずぅっと昔から存在したんだよ。オウカ・マキシムスが新しく作ったわけじゃねぇ。ま、差別主義ってやつだな」

 もともと基盤はあったのか。
 人間が番反対派のトップになるのは、もしかして相当すごいことではないだろうか。

「だから別に番反対派は脅威でも何でもなかったわけだ。騒ぐだけのどうでもいい組織ってことで放置されてた。ガス抜きにちょうどいいしな。だが、オウカ・マキシムスがトップになってから番反対派の一部のグループの動きが怪しくてな。魔物の変異種も増えた。小指が切れてるブラックバードもな」
「それは……魔物で実験してるってことですか?」
「だろうな。その実験してるアジトも何か所もあって分からねぇんだよ。別にこの国にとって無害な変異だったらいいんだが、ステルスはめんどくせぇ」

 これまで襲ってきた変異種にすべてオウカが関わっていたということ? だから彼女は、ドラクロアは魔物に滅ぼされるべきと言ったのだろうか。あれは本気だったのか。

「オウカが番反対派のトップってずっと分かってたんじゃないんですか? なぜ今更動くんですか?」
「いんや、判明したのは最近だ。つーか、お前に接触し始めたから分かったんだよ。疑いはあったが国内で一番金持ちの伯爵家の夫人を疑いレベルでしょっぴけねぇだろ」

 ハンネス隊長と話す横で、エーギルはキーンの亡骸を引きずってくると開いていた目を閉じさせてから服の中を調べていた。

「私に?」
「あぁ、正直お前も番反対派に入るのかと思われてた」
「あー、なるほど?」
「まぁ入ってなかったわけだが。お前、ギデオンに何かしただろ」
「何か、とは?」
「オオカミ獣人が番を間違えたことはねぇ。俺たちもだが。ギデオンに起きたことは何かおかしいだろ。あいつが他の女の尻追いかけてるんだぞ」
「私は何も。正直、番のことはよく分かりませんしギデオンに不満があるなら私が彼を殺せばいいことです」
「お前の場合はそれが説得力あるんだよなぁ。厄介だ」

 ハンネス隊長までキーンと同じ質問をしてくる気だろうか。少しエーファは警戒を強める。

「セイラーンは薬大国だろうが。オウカ・マキシムスはセイラーン出身。お前はオウカからもらった薬を使ってギデオンをおかしくしたと思われてたんだよ」
「セイラーンは母国からは遠いので詳しくは知りません。それについ最近までじゃないですか、私のこと疑ってたの」
「ドラクロアの隣国だから勉強しときゃ良かっただろ。ついさっき、キーンがお前を問い詰めるまでお前は疑われてたんだよ」
「聞いてたなら助けてくれればよかったのに」
「会話を聞いてたのは俺じゃなくてエーギルだ」

 あの時に人の気配はなかったはずと顔を顰めたエーファにハンネス隊長は続ける。

「こいつは小さいトカゲになって俺のポケットに入ってついてきてた。お前とキーンでなんか企んでんのかと思って離れてみたらこれだ」

 エーギルって大きなトカゲにしかなれないのかと思っていたら、大きさは自在だったのか。諜報もお手の物じゃないか。どんどん明かされる事態に頭が痛くなってきた。
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