要注意⚠︎この恋罪悪につき
「ねえ、彼氏欲しいって思う?」
私は、思わず首を傾げた。佑月がいきなり変なことを聞いてきたからだ。
「好きな人ができれば、そう思うのだろうね」
水筒のお茶が美味しい。ぐびぐび飲みながら、グラウンドを元気に走る咲森くんを眺めた。他の男子をはるかに引き離し、ぐんぐんスピードを上げている。1500mなんてあっという間なんだろう。1000mでも死にかけた私とは大違いだった。
「むくちゃん。咲森が気になるの?」
佑月が言った。少しからかう感じの言葉で、私はぽかんとした。
「気になるよ。小学生の時にお世話になったし。久しぶりに会ったら色んなことを思い出して」
「………あいつ、むくちゃんのなんなの。ムカつく。ちょっと顔がいいからって」
「咲森くん、ギルバートには及ばないよ」
「あんたの審美眼はおかしい!」
自分は咲森くんを「ちょっと顔がいいからって…」と評した癖に。佑月はふーっとため息を吐いた。
「あいつ、絶対危ないよ。クズの気配がするもん」
「それは違うよ」
「むくちゃんはわかってない!私はそういうの敏感だもん。わかるのよ」
その言葉を聞いて私は反論するのをやめた。佑月は中学からの友達である。彼女は中学時代とてもモテていた。その経験に裏付けられた言葉ならば、咲森くんはクズなのかもしれない。
「クズっていうか…うーん…とにかく危険な感じ?外面がいいやつほど中身がやばいとかありえるし。私自身そうなんだけどね」
てへっと笑う佑月は可愛らしかった。常に、曖昧とはいえ確かに存在したスクールカーストの最上位に君臨し、当たり前のように男子からの恋心を棒に振って弄んだだけはある。ちなみに振る理由はいつもこうだった。「うーん…今は恋愛より友情の方が大事っていうかぁ〜」その友情の相手が私だというのは誰にでもわかって、そのために私は中学3年間佑月の庇護下にあったと言っても決して過言ではないだろう。
中坊になんて興味はないわ。もっと年上で年収高くて安定した職に就いてて真面目で私を1番に愛してくれる男じゃないと。男子生徒に口説かれる度に佑月は愚痴っていた。かっこいいと噂される先輩でさえ、佑月にかかれば他と同じの「中坊」になってしまうのである。咲森くんはどうなのだろう。
「まあ、そこらの、こないだまで中坊やってましたーって感じの男子と違うことは認めてやるけどね。あれは『男』だよ。ガキじゃない。真面目ぶってるけど、女子見る目が異常なくらい冷たいから。モテるけど冷めてる奴が1番怖い。でもってむくちゃんを見る目が異常なくらい熱いから確定でヤバい」
私は首を傾げた。咲森くんは、そんな目で自分を見ていただろうか。
「………そういうとこだよむくちゃん。だけどあんたはそこがいいんだから、もうしょうがないよね」
何かを諦められた。
「彼氏欲しい?」
再び、佑月が言った。同じ話題をぐるぐる続けるなんて、佑月らしくない。
「佑月は、欲しいの?例えばあんな風に」
私はそっと、少し離れた場所で雑談する男女を指差した。彼らは入学そうそう付き合いだしたと有名なカップルである。私でも知っているくらいの一大ニュースだった。佑月はたちまち顔をしかめる。
「あんな風なら嫌だね。彼氏なんてクソ食らえだって思っちゃうよ。あんなのただのごっこ遊びじゃん。お互いの承認欲求を満たしたいがためのビジネスパートナーみたいなもんじゃない。周りにもてはやされて、『いいなー私も〇〇くんみたいな彼氏欲しい!』って言われたいがための関係じゃん。恋ってあんなんじゃないよ。もっと密かに、神聖であるべきだ。自慢するためにする恋は、間違いない。嘘でできてる」
私は少し納得した。
「そうか。佑月はやっぱり彼氏が欲しいんだね」
「え!?今の話でどうしてそうなるの!?」
心底驚く佑月。
「それはつまり佑月が、密やかで神聖で真実の恋をしたいと言っているのと同じでしょう。いい相手、いればいいねえ」
佑月は絶句した。次の瞬間には真っ赤になった。
「むくちゃんの癖に…………!大人みたいなことを…………!」
佑月はきっと、佑月の望むような美しい恋を体験できるだろう。私は今のままでじゅうぶん。恋なんて、恋人なんて、小説の中だけで結構だ。それなのに、真剣に現実の恋を考えて理想を追い求める佑月や、5年誰かに片想いしているのであろう咲森くんのことを羨ましく思ってしまうのは、いったいどういうことなのだろうか。
私は、思わず首を傾げた。佑月がいきなり変なことを聞いてきたからだ。
「好きな人ができれば、そう思うのだろうね」
水筒のお茶が美味しい。ぐびぐび飲みながら、グラウンドを元気に走る咲森くんを眺めた。他の男子をはるかに引き離し、ぐんぐんスピードを上げている。1500mなんてあっという間なんだろう。1000mでも死にかけた私とは大違いだった。
「むくちゃん。咲森が気になるの?」
佑月が言った。少しからかう感じの言葉で、私はぽかんとした。
「気になるよ。小学生の時にお世話になったし。久しぶりに会ったら色んなことを思い出して」
「………あいつ、むくちゃんのなんなの。ムカつく。ちょっと顔がいいからって」
「咲森くん、ギルバートには及ばないよ」
「あんたの審美眼はおかしい!」
自分は咲森くんを「ちょっと顔がいいからって…」と評した癖に。佑月はふーっとため息を吐いた。
「あいつ、絶対危ないよ。クズの気配がするもん」
「それは違うよ」
「むくちゃんはわかってない!私はそういうの敏感だもん。わかるのよ」
その言葉を聞いて私は反論するのをやめた。佑月は中学からの友達である。彼女は中学時代とてもモテていた。その経験に裏付けられた言葉ならば、咲森くんはクズなのかもしれない。
「クズっていうか…うーん…とにかく危険な感じ?外面がいいやつほど中身がやばいとかありえるし。私自身そうなんだけどね」
てへっと笑う佑月は可愛らしかった。常に、曖昧とはいえ確かに存在したスクールカーストの最上位に君臨し、当たり前のように男子からの恋心を棒に振って弄んだだけはある。ちなみに振る理由はいつもこうだった。「うーん…今は恋愛より友情の方が大事っていうかぁ〜」その友情の相手が私だというのは誰にでもわかって、そのために私は中学3年間佑月の庇護下にあったと言っても決して過言ではないだろう。
中坊になんて興味はないわ。もっと年上で年収高くて安定した職に就いてて真面目で私を1番に愛してくれる男じゃないと。男子生徒に口説かれる度に佑月は愚痴っていた。かっこいいと噂される先輩でさえ、佑月にかかれば他と同じの「中坊」になってしまうのである。咲森くんはどうなのだろう。
「まあ、そこらの、こないだまで中坊やってましたーって感じの男子と違うことは認めてやるけどね。あれは『男』だよ。ガキじゃない。真面目ぶってるけど、女子見る目が異常なくらい冷たいから。モテるけど冷めてる奴が1番怖い。でもってむくちゃんを見る目が異常なくらい熱いから確定でヤバい」
私は首を傾げた。咲森くんは、そんな目で自分を見ていただろうか。
「………そういうとこだよむくちゃん。だけどあんたはそこがいいんだから、もうしょうがないよね」
何かを諦められた。
「彼氏欲しい?」
再び、佑月が言った。同じ話題をぐるぐる続けるなんて、佑月らしくない。
「佑月は、欲しいの?例えばあんな風に」
私はそっと、少し離れた場所で雑談する男女を指差した。彼らは入学そうそう付き合いだしたと有名なカップルである。私でも知っているくらいの一大ニュースだった。佑月はたちまち顔をしかめる。
「あんな風なら嫌だね。彼氏なんてクソ食らえだって思っちゃうよ。あんなのただのごっこ遊びじゃん。お互いの承認欲求を満たしたいがためのビジネスパートナーみたいなもんじゃない。周りにもてはやされて、『いいなー私も〇〇くんみたいな彼氏欲しい!』って言われたいがための関係じゃん。恋ってあんなんじゃないよ。もっと密かに、神聖であるべきだ。自慢するためにする恋は、間違いない。嘘でできてる」
私は少し納得した。
「そうか。佑月はやっぱり彼氏が欲しいんだね」
「え!?今の話でどうしてそうなるの!?」
心底驚く佑月。
「それはつまり佑月が、密やかで神聖で真実の恋をしたいと言っているのと同じでしょう。いい相手、いればいいねえ」
佑月は絶句した。次の瞬間には真っ赤になった。
「むくちゃんの癖に…………!大人みたいなことを…………!」
佑月はきっと、佑月の望むような美しい恋を体験できるだろう。私は今のままでじゅうぶん。恋なんて、恋人なんて、小説の中だけで結構だ。それなのに、真剣に現実の恋を考えて理想を追い求める佑月や、5年誰かに片想いしているのであろう咲森くんのことを羨ましく思ってしまうのは、いったいどういうことなのだろうか。