無茶ぶり王子の侍女を辞めさせられて、外の世界に出たら滅茶苦茶楽しい。
プロローグ
「お前なんて、俺の侍女に相応しくない!!」
今日もカシューム殿下が癇癪を起こしている。
……熱い紅茶の入ったティーカップを投げつけられ、腕に破片がささり、紅茶がかかる。ひりひりと、肌が痛む。
この場で泣き喚いても、熱いと嘆いても……益々面倒なことになってしまうことを私は知っている。
だから私は大人しくしている。
カシューム殿下に悟られないように、自身の魔力でひそかに肌を冷やす。
カシューム殿下に知られてしまったら、益々癇癪がひどくなってしまう。
まだ幼い頃のカシューム殿下は、ここまで酷くはなかったと思う。自分勝手な部分の片鱗は確かにあって……昔から私は振り回されてはいた。でもここまで理不尽ではなかった。
少なからず周りに対してもう少し思いやりはあったと思う。
だけど、今はすっかりその頃の様子など全くない。
「申し訳ございません、カシューム殿下」
頭を深く下げる。
ここできちんと謝罪をしなければ、益々大変なことになることを私は身をもって知っている。
……頭の下げ具合が気に食わないとか、私の視線が嫌だとか。
そういう細かいことでもカシューム殿下は怒りをあらわす。
いつもカシューム殿下は、私を否定してばかりだ。私はそんなに至らないのだろうかと、その点に関してはとても落ち込む。
私は……王城に来て長いのに、いつも怒られてばかりだ。
大きくなって、侍女としての職務をきちんとできるようになったと思った頃から特に私はよく怒られる。カシューム殿下が怒っている時に他の侍女達にも怒られることがある。
今回も、くすくすと笑いながら、嫌な目で他の侍女達は私を見ている。
カシューム殿下はこうして調子よく私にお怒りになる際、周りが便乗するとカシューム殿下はとても嬉しそうな顔をする。
きっとこうして私が謝り続ければ、そのうちカシューム殿下の怒りも収まるだろうと……いつも通りそうなのだろうとそう思っていた。
だけど、今日だけはいつもとは異なった。
「謝ったところで、俺はもう我慢出来ない!! セムラ、お前のことは昔から知っているからこそ、温情で使えないお前を傍においてやっていたのだ」
カシューム殿下の声に驚いて私が顔をあげたら、物が飛んできた。
それはカシューム殿下の投げてきた羽ペンである。
頬をかすめて、つーっと血が流れる。
カシューム殿下に仕えていると、こうして血を流すことなど日常茶飯事である。
そこまで大きな傷がつくようなことをしてこないのでまだ幸いだったと言えるだろう。だって死に至るような大怪我などを常々負わせられていたのならば私はとっくの昔に命を落としていたことだろう。
「誰が顔をあげていいといった!!」
「……申し訳ございません」
再度、頭を下げたまま私はカシューム殿下の言葉を聞く。
「いいか? お前を傍に置いていたのは記憶をなくしたお前を元侍女長が可愛がっていたためだ。その侍女長からお前のような駄目な存在をくれぐれも頼むと言われていたのだ。だからお前のことを面倒を見てやっていたのだ。だが、もう我慢の限界なのだ!!」
私はカシューム殿下の言うように、元々王城に侍女長として仕えていた女性――私にとって母のように知っている人に育てられた。記憶を無くしていた幼い私を拾い、育ててくれた。高齢だった母様はしばらくして亡くなってしまった。
思えばそのあたりから、カシューム殿下は怒りっぽくなった気がする。
「だから、お前のことは解雇する! 王城に留まることも許さん! 今すぐにでも王城から出ていくように」
そして、そんな風に言い切られてしまったわけである。
今日もカシューム殿下が癇癪を起こしている。
……熱い紅茶の入ったティーカップを投げつけられ、腕に破片がささり、紅茶がかかる。ひりひりと、肌が痛む。
この場で泣き喚いても、熱いと嘆いても……益々面倒なことになってしまうことを私は知っている。
だから私は大人しくしている。
カシューム殿下に悟られないように、自身の魔力でひそかに肌を冷やす。
カシューム殿下に知られてしまったら、益々癇癪がひどくなってしまう。
まだ幼い頃のカシューム殿下は、ここまで酷くはなかったと思う。自分勝手な部分の片鱗は確かにあって……昔から私は振り回されてはいた。でもここまで理不尽ではなかった。
少なからず周りに対してもう少し思いやりはあったと思う。
だけど、今はすっかりその頃の様子など全くない。
「申し訳ございません、カシューム殿下」
頭を深く下げる。
ここできちんと謝罪をしなければ、益々大変なことになることを私は身をもって知っている。
……頭の下げ具合が気に食わないとか、私の視線が嫌だとか。
そういう細かいことでもカシューム殿下は怒りをあらわす。
いつもカシューム殿下は、私を否定してばかりだ。私はそんなに至らないのだろうかと、その点に関してはとても落ち込む。
私は……王城に来て長いのに、いつも怒られてばかりだ。
大きくなって、侍女としての職務をきちんとできるようになったと思った頃から特に私はよく怒られる。カシューム殿下が怒っている時に他の侍女達にも怒られることがある。
今回も、くすくすと笑いながら、嫌な目で他の侍女達は私を見ている。
カシューム殿下はこうして調子よく私にお怒りになる際、周りが便乗するとカシューム殿下はとても嬉しそうな顔をする。
きっとこうして私が謝り続ければ、そのうちカシューム殿下の怒りも収まるだろうと……いつも通りそうなのだろうとそう思っていた。
だけど、今日だけはいつもとは異なった。
「謝ったところで、俺はもう我慢出来ない!! セムラ、お前のことは昔から知っているからこそ、温情で使えないお前を傍においてやっていたのだ」
カシューム殿下の声に驚いて私が顔をあげたら、物が飛んできた。
それはカシューム殿下の投げてきた羽ペンである。
頬をかすめて、つーっと血が流れる。
カシューム殿下に仕えていると、こうして血を流すことなど日常茶飯事である。
そこまで大きな傷がつくようなことをしてこないのでまだ幸いだったと言えるだろう。だって死に至るような大怪我などを常々負わせられていたのならば私はとっくの昔に命を落としていたことだろう。
「誰が顔をあげていいといった!!」
「……申し訳ございません」
再度、頭を下げたまま私はカシューム殿下の言葉を聞く。
「いいか? お前を傍に置いていたのは記憶をなくしたお前を元侍女長が可愛がっていたためだ。その侍女長からお前のような駄目な存在をくれぐれも頼むと言われていたのだ。だからお前のことを面倒を見てやっていたのだ。だが、もう我慢の限界なのだ!!」
私はカシューム殿下の言うように、元々王城に侍女長として仕えていた女性――私にとって母のように知っている人に育てられた。記憶を無くしていた幼い私を拾い、育ててくれた。高齢だった母様はしばらくして亡くなってしまった。
思えばそのあたりから、カシューム殿下は怒りっぽくなった気がする。
「だから、お前のことは解雇する! 王城に留まることも許さん! 今すぐにでも王城から出ていくように」
そして、そんな風に言い切られてしまったわけである。
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