無茶ぶり王子の侍女を辞めさせられて、外の世界に出たら滅茶苦茶楽しい。

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「……これからどうしよう?」


 私、セムラは途方にくれながらとぼとぼと歩いている。



 私は王城以外での暮らしを知らない。母様に拾われてから、侍女達の住まう建物でずっと過ごしてきた。カシューム殿下の許可がなければ王城の外にも出ることも出来なかった。



 そもそも外に出る時もカシューム殿下と共に外に出る程度だった。



 私の世界は、王城で完結していたように見える。



 私は王城から追い出され、そのまま「カシューム殿下がお前の顔を見たくないと言っている。そして支給されたものは置いて行け」などと言われ王都からも追い出されてしまった。
 侍女服を身にまとうなとも言われた。私が王城の侍女服を身に纏っていると、王城の品位が下がるとか言われてしまった。
 私は侍女服以外の服はあまり持ち合わせていない。基本的に休みもなく、侍女として働いていた。
 かろうじて持っていたワンピースを見に纏う。少しだけサイズが小さくなっているけれど……仕方がない。


 侍女として働いている中で、衣食住を与えているからという理由で報酬なんてもらってなかった。
 お金の使い方は知っているけれど、自分自身のお金なんてない。



 私の部屋には自分の物などはない。
 だって自分のお金もないし、基本は必要なものは今の侍女長に言ってから購入してもらったものだ。
 私の手持ちはほとんどない。かろうじて持ち出せたのは、記憶をなくした幼いころから持っているイヤリングだけである。
 唯一、完全に私の物であると言えるもの。



 身に着けているとカシューム殿下に見つかって取られてしまいそうだからって、ずっと隠し持っていたもの。
 ……他に何か持っていけたらよかったのに。そしたらそれを売って、お金を稼ぐが出来たかもしれない。



 さて、まず一番考えなければならないことはお金と食事。


 ご飯が食べられなかったら餓死してしまう。
 カシューム殿下から罰だと言われて、食事を抜かれたことはあった。あの時もお腹がすいて仕方がなかった。私のお腹がなると物が飛んできたり、お怒りが向けられてきたりしたっけ。
 あの時とおなじような空腹を感じさせられてしまうのだろうか。



 ……ああ、でも死にたくはないから。なんでもいいから食べよう。まだ外ならばその辺に食べられるものでも生えている可能性が高い。私は野生の植物とかで何が食べられるかとかよく分からないけれど、それでも生きていくためには何か食べなければならない。



 ただただ歩く。
 どこかしらの村などに辿り着ければ……私は生きていけるかもしれない。


「裸足でなぜ歩いているんだい? 乗っていきなさい」



 村などまで歩くしかないなと思って、街道を歩いていたら商人に声をかけられた。



 私は驚く。
 王城だと私がこうやってカシューム殿下からの無茶ぶりで痛いなという思いをしていても声をかけてくる人ってあんまりいなかった。



 私は今、裸足だ。靴も侍女としてのものしかなかったから渡して出てきたから。
 こんな風に裸足で歩いている私は、周りから見たら関わりたくないと感じるのではないかなと思った。そういう風に目を背ける人ってきっと多いから。
 だけどその商人の夫婦は、なんだか私のことを心から心配しているように見えた。



 そのことがなんだか、不思議な気持ちになる。母様が居た頃はこんな風な表情をよく見ていた気がする。でもその後は……あんまりなかったなと思う。
 私のことを庇った人は、姿を消したり、気まずそうな視線に変わったりとかだった。



「足がボロボロじゃないか」
「ほら、この靴を履いて」


 どうしてか無条件で、この商人たちは私に靴を渡してくれる。


「私、お金とか持ってないです」


 お金も持っていないのに、こうやって靴をもらうなんていいのだろうかとそう言ったら驚かれた顔をされる。



「そんなものいんだよ! 君のような若い女性が困っているのは放っておけないからな」
「そうよ。何も考えずに受け取ってくれていいの。それにしても貴方、まだ若いのに苦労しているのね? 十代前半でしょう……?」



 商人夫婦はなんだか驚くぐらいに優しい。



「ありがとうございます。私はセムラといいます。年は……十五歳ぐらいだと思います」



 過去の記憶がないから、それはおおよその年齢でしかない。ただ拾われた時に六歳ぐらいだと判断されたため私は十五歳ぐらいだ。
 商人夫婦に「十五歳ぐらいとは……?」と疑問を口にされた。



 私が記憶を失っていた状態で拾われたため、自分の年齢が明確に分からないことを言ったら「本当に苦労したのね……!」と抱きしめられてしまった。
 その後、商人夫婦と話しながら馬車に揺られていると、気づけば私は疲れがたまっていたのか眠りについていた。

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