無茶ぶり王子の侍女を辞めさせられて、外の世界に出たら滅茶苦茶楽しい。
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その後、私は王都から遠く離れた街まで、フレンさんとツヤさんに連れて行ってもらった。
その街に二人は家を持っているらしい。基本的に今回私を拾ってくれた時のように様々な場所に商品の仕入れや販売のために向かうことも多いらしい。だから常に街に滞在しているわけではないのだって。
私は街に着くまでの間、そういう話を聞いているだけでなんだか楽しかった。
だって私の世界は、王城で完結していた。
沢山の場所を訪れたことがあるというそれだけで、凄いなと素直に思った。
カシューム殿下は珍しいものを集めるのを好んでいた。だからカシューム殿下の集めたそれらの宝物を見たことはあった。扱いの難しいものの管理を任された時は本当に困った。その集めた物を駄目にしてしまったら、カシューム殿下がお怒りになることは分かっていたから。だから必死に試行錯誤して頑張ったの。
そういう珍しい宝物には、正直カシューム殿下のことがあるから良い印象があまりない。私は折角……こうして王城以外の場所に出たのだから、今まで経験したことのないことを経験してみたいなとそういう気持ちでいっぱいになる。
それは王城を出てから、見たことのない景色がずっと広がっているからなのかもしれない。
フラムさんとツヤさんが言うには、私は世間知らずらしい。そういうわけで常識に関しても色々と教わった。知らないことが沢山あって、私は自分の世界の狭さを実感した。
「セラムちゃん、まずは仕事が決まるまでは私たちの家にしばらくいていいからね」
ツヤさんはそう言ってにこにこと笑う。本当に優しい人たちだ。
「ありがとうございます。なるべく早く仕事は見つけます。あとこの家に住まわせてもらう間は雑用などをさせてほしいです」
「セラムちゃんは高貴な方に仕えていたと言っていたけれど、何が得意なの?」
「家事は一通りできます。料理なども任せてもらえるなら作ります」
私がそう答えたら、ツヤさんは目を輝かせた。
「それは素敵ね。是非、作って欲しいわ」
「どういった料理が食べたいなどありますか?」
「セラムちゃんの得意料理でいいわ」
そんな風に答えられてしまって、少し悩んでしまう。
カシューム殿下がいつも突然、あれを食べたい、これを食べたいと口にしていた。だからその度にそれに応えられるように一生懸命だった。望んだ料理を作れないともっと怒りを爆発させてしまうので大変だった。
こうして特に希望なく、自由に作っていいと言われると……逆に何を作ったらいいだろうかと悩んでしまう。
結局フレンさんとツヤさんの好みを聞いた上で自由に作ってみることにしていた。
この家では通いの料理人を雇っているらしく、その人と一緒に作ってみる。その人もとても良い人だった。
突然料理を作るとやってきた私を受け入れてくれた。
なんだか、本当に……王城を追い出されてから私は優しい人にしか会っていない気がする。きっと世の中は優しい人ばかりではなくて、悪い人もいるだろう。だけど……それでも優しい人って私が思っているよりずっと多いんだろうなと感じた。
フレンさんとツヤさんのことを考えながら私は手元にある食材で料理を作る。
折角だからと……牛肉を使った他国に伝わる料理を作る。味付けまで完全に再現したものだ。カシューム殿下に食べたいと言われて、その国出身の使用人に教えてもらったもの。私が急に教えて欲しいというから、交換条件を出された。それで教えてもらったものなのだけど、何故か彼女は私が再現したものを食べて目を見開いていたのを覚えている。
その後は特に関わることはなかったけれど、そういえばなんであの時にあんな表情をしていたのだろうか。
そんなことを考えながら調理を進めていった。
作り終わって、フレンさんとツヤさんに料理を持っていくと驚かれる。どうやら商人として実際に食べたことがあったらしい。本場を知っている方に出すなんてとドキドキしたけれど、食べた二人は「全く同じ味だ」と驚いていた。
その後は料理だけではなく、洗濯などの家事もてきぱきと行いながら、仕事を探すことにする。
「セラムちゃん、あなたこれだけ出来るならこのままどこかに侍女として仕えることも簡単よ」
ツヤさんは私の働きぶりを見て、そう言って笑っていた。
「出来れば違うことをしてみたいと思います。我儘かもしれないですけれど……こうして今まで見たことのないものを沢山見て、やりたいなと思うことが沢山あるんです」
「まぁ、それはそれで素敵なことだと思うわ」
「期限を決めてそれまでに就職が難しそうなら、一先ず侍女になるかもしれませんが……、他の仕事を出来ればしてみたいなと」
私はそう口にしてから、仕事探しに精を出す。
やったことないことをやってみたいからと冒険者ギルドにも登録してしまった。カシューム殿下を護衛するという意味合いで習った事しか出来ないけれど、戦い方を学ぶというのもいいかもしれないと思ったから。
それに下位ランクだと掃除や雑用などもあるので、何かあった時の保険にはなる。
それ以外にも色んな場所に試しに職業体験に行ってみたりもした。フレンさんとツヤさんの紹介だとすんなりと話が進むことが多かった。どういう仕事をするかまだ考えている最中だというと、誰もが笑って応援してくれた。
本当に優しい人ばかりで、この人たちが応援してくれるならちゃんとした良い職場を探さないといけないとそう思った。
――そしてそれからしばらくして私は仕事をきめた。
それは魔道具のお店だった。