あと一回だけ奇跡を起こせるなら…

第1話 最愛の君



西暦200年02月25日。

遡る事現在〈=西暦207年09月〉から
7年程前の事にはなりますが、

袁紹軍の本拠地である鄴城に傾国の美女と呼ばれる程に美しい女性が嫁いで来ました。

袁紹「かように美しき女性を見たのはいつ以来であろうか?」

息子と同じくらいの若くて美しき女性に鼻の下を伸ばしているのは…

劉鳶「殿!私と言うものがありながら無礼ではありませんか!」

劉鳶…字は明琳《めいりん》

袁紹の正妻で嫉妬深いのだが、
若くて見目麗しき男は大好きで
袁紹を困惑させている。

袁紹「文若がいた頃は鼻の下を伸ばしながら声を掛けていたのは…誰だったかな?」

荀彧…字は文若は袁紹軍の軍師だった頃もありましたが袁紹の人間性に幻滅したようで今では曹操軍の軍師をしております。

劉鳶「あらあら、そうでしたか?」

人の事は追求し続けるのですが、
自分の事になると途端に惚《とぼ》けるのが劉鳶でございました。

袁紹「…おっほん!まぁそれは…ともかくとしてこの度は…我が次男の…あ、誰だっけ?」

袁紹も長男ではあるものの劉鳶の子ではないため庶子扱いとなっている袁譚…字は顕思。

それと…

3男ではあるものの劉鳶が産み
自他共に認める程容姿が袁紹に似ている袁尚…字は顕甫の事は覚えているようでしたが…

袁熙「恐れながら父上、我が名前は小龍でございます。諱は…」

劉鳶「熙ですよ。袁熙。」

袁熙…字は小龍の事は…
すっかりその脳裏から消え失せているようでございました。

袁紹「…ああ、そうだったな…。
小龍の元に嫁いで貰ったこと、
とても嬉しく思っている。」

気を取り直して袁紹が甄貴に対して
感謝を述べると甄貴は優しげな笑みを浮かべていました。

甄貴「我が君のように素敵な殿方と出逢えたのは私の人生で1番の幸せな奇跡でございます。」

袁熙は甄貴の隣で…
照れ笑いを浮かべておりましたが…

袁紹は3男である袁尚の妻になって欲しいと思っておりましたので…

袁紹「…」

甄貴が次男の袁熙を選んだ事に
不服そうな顔をしておりました。

すると…

袁紹「…熙よ、済まぬが幽州へ単身赴任をして貰えぬだろうか?」

幸せ絶頂期である袁熙と甄貴を突然奈落の底へと突き落とすような事を口にしたのでございます。

しかし…

袁紹と曹操の放つ緊張感は、
既にピークとなっておりいつ戦となるか予想も出来ない程でした。

袁熙「…畏まりました。」

袁熙も言いたい事は
それなりにありましたが…
親に逆らう事は許されないのが
この時代でございました。

幽州は曹操の本拠地である許都と異民族でもあり長年袁紹と盟友を結んでいた烏桓族の本拠地の間にある場所。

幽州を死守しなければ烏桓族と
袁紹軍の命運は風前の灯火です。

袁熙は袁紹軍の勝利を信じ
単身赴任をしましたが官渡の戦いで
袁紹軍は大敗を喫してしまいました。

袁紹「曹操如きに敗れるとは…」

2年に渡り続いた決戦は、
曹操軍の大勝で終わり袁紹は、
自己顕示欲が強い事もあり…

袁紹「…!絶対許さん!」

配下である者達に対して
雪辱を果たす事を誓おうと高らかに
再戦を宣言した矢先…

袁紹「うっ…!」

心臓発作を起こし…
命を落としてしまいました。

これにより袁紹の後継争いは
熾烈を極める事となりました。

但し…

袁熙「桜綾、逢いたかった…!」

甄貴「我が君…私もです。」

西暦204年02月14日。

祝言を挙げてから実に4年程、
忙しさを極めていた事もあり
逢えてなかった袁熙と甄貴には
跡継ぎ問題などどこ吹く風でした。

そんな事よりも逢えた事が
何よりも嬉しかった2人は…

甄貴「我が君に良く似た
男児を産みたいと存じます。」

愛を育み…その愛は…

甄貴「…顕甫様、どうやら私、
我が君の子を身籠もったようです。」

順調に実っておりましたが…

それから7ヶ月後の
西暦204年09月14日の事。

袁尚「名家の血を引く私が
曹操なぞに負ける事などあり得ぬ!」

今は亡き父親の袁紹と同じく
曹操軍の圧倒的強さを前に…
大敗を喫してしまいました。

すると…

曹操「袁紹に良く似た甘えた根性のお坊ちゃまなぞどうでも良いが次男の嫁である甄氏を必ずや生け捕りにして我が前に連れて来るのだ…!」

さすがは人妻好きな乱世の奸雄・曹操と言わざるを得ないくらいの急展開で曹操は鄴城を蟻一匹出入り出来ないくらいの軍勢で囲んだのです。

曹操のする事に誰も苦言を呈してはならないというのが世の常識ですが…

曹操の次男であり17歳となったばかりの曹丕…字は子桓は舞妓から苦労に苦労を重ねた母親・卞春麗《チュンリー》の事を考えると苦言を呈さずにはいられませんでした。

曹丕「父上、一体どれ程側室を迎えられたら気が済むのでしょうか?母が…不憫とは思われぬのでしょうか?」

そんな曹丕を宥めているのは、
曹操が挙兵した頃より付き従ってきた夏侯淵…字は妙才でした。

夏侯淵「まぁまぁ…。殿の人妻好きは病の一種だからなぁ…。」

まぁ夏侯淵の言い方は曹丕を宥めた…と言うよりは…

曹操「妙才、
儂の悪口を言うでないわ…!」

曹操に対する悪口のようなものでしたので曹操の機嫌を損ねてしまいました

夏侯淵「…そんなつもりなかったんですが俺とした事が…」

夏侯淵が曹操を宥めている間に
曹丕は…曹操の狙っていた宝を先に
頂こうと決意しました。

曹丕『傾国の美女なら沈み逝く袁家と共にいるよりもいつお迎えが来るのか分からぬ父上よりも私と生きるのが相応しいからな…!』















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