村娘は魔界で立派な悪魔を目指すようです。
15 朝のお散歩は日課です
夜の内に案内された部屋は広々とした寝室で、ユマは場違いな待遇に目をちかちかさせていた。
現在のユマはレースのカーテンが下がった天蓋付きベッドの中、ふかふかのベッドに横たわっている。
魔王の寝室では一瞬意識を飛ばしたものの、村娘のユマにはその高級感が異世界感をひしひしと伝えてくる。
(朝まであと……一時間くらい。一睡もできなかったけど全然後悔してない)
カーテンの隙間から見える空は真っ暗だったが、早寝早起きを心がけているユマにはくっきりはっきりした体内時計が存在していた。
(天蓋付きベッドって世の中に存在したのね……)
まして寝室だけで弟や従兄妹たちと暮らしていた家よりも広いのだ。
(毛布、ふわふわ……気持ちいい。生きていてよかった)
ユマには魔界という恐ろしげな場所へ来たという自覚はあんまりなかった。どこか浮き立つ気持ちで寝返りを打って、柔らかな感触を味わう。
(けど、いつまでも怠けていてはだめね)
ユマは意を決して起き上がる。体力と健康には自信を持っていて、睡眠不足でも実にさわやかな朝だった。
ユマは夜着姿のまま室内をうろつき、とりあえず着るものを探す。壁際までてくてくと歩いて、そこに衣装棚を発見した。
「あ、クローゼット。魔界にもあるのね」
ただしユマの家のものとは似ても似つかない上品なクローゼットだった。年を経た分だけ色がくすみ、茶褐色に黄金を帯びた深みを醸し出している。
「覗きます……」
ユマは誰にともなく断りを入れてから、そっと引き戸に手をかける。
そこにはクローゼットの外見と同様、貴族の令嬢が好んで身につけるようなドレスがぎっしりと詰まっていた。
ユマはうなずいて一言告げる。
「……失礼しました。まちがえました」
ユマはやはり断りを入れて、ぱたんと扉を閉める。
(ここは私の部屋じゃないみたいね。どうしましょう……起きるところからやり直せるかしら)
村娘の感覚では、自分は人違いでこの部屋に案内されたと納得したのだった。
ユマはしばらく室内をさ迷っていたが、ふと寝室に隣接した居室に足を踏み入れる。
「あ」
部屋の隅にある棚の上に、ユマが昨日着てきた服が畳まれて置いてあった。
「そう、これが一番なの」
大満足でユマはそれを身につける。甘く熟した秋の木の実で色づけされた赤は、ユマの甘い風貌によく似合っていた。
ユマは衣服が落ち着いたところで、外へ出てみようと扉へ向かった。
ところが全くノブが回らず、ユマは扉の前で頭に疑問符を浮かべる。
(困ったわ。朝のお散歩が日課なのに)
閉じ込められているとは微塵も思わないユマだった。
ユマは開かないものは仕方がないと、おもむろに窓辺へ歩み寄る。
なぜそうなると言ってくれる弟はおらず、はしたないのを覚悟で大胆に窓縁に足を掛けた。
「えい!」
ユマの思った通り、蹴り飛ばせば窓は開いた。というより、無理やり開いてしまった。
ユマは涼しい風に目を細めながら外を見つめる。見下ろせばちょうど部屋の一階層下に、段上の花畑が広がっていた。
人は誰もいないが、手入れのされた花畑らしく、溝が掘られて水が流れた形跡がある。
ユマはそれを見てはしゃいだ声を上げる。
「まあ、素敵」
花というより茶色や紫の毒々しい草の集合なのだが、ユマは朝のお散歩ができれば十分と無邪気に微笑んだ。
「行きましょう!」
ユマは嬉々として、ぴょんと窓から飛び降りた。
現在のユマはレースのカーテンが下がった天蓋付きベッドの中、ふかふかのベッドに横たわっている。
魔王の寝室では一瞬意識を飛ばしたものの、村娘のユマにはその高級感が異世界感をひしひしと伝えてくる。
(朝まであと……一時間くらい。一睡もできなかったけど全然後悔してない)
カーテンの隙間から見える空は真っ暗だったが、早寝早起きを心がけているユマにはくっきりはっきりした体内時計が存在していた。
(天蓋付きベッドって世の中に存在したのね……)
まして寝室だけで弟や従兄妹たちと暮らしていた家よりも広いのだ。
(毛布、ふわふわ……気持ちいい。生きていてよかった)
ユマには魔界という恐ろしげな場所へ来たという自覚はあんまりなかった。どこか浮き立つ気持ちで寝返りを打って、柔らかな感触を味わう。
(けど、いつまでも怠けていてはだめね)
ユマは意を決して起き上がる。体力と健康には自信を持っていて、睡眠不足でも実にさわやかな朝だった。
ユマは夜着姿のまま室内をうろつき、とりあえず着るものを探す。壁際までてくてくと歩いて、そこに衣装棚を発見した。
「あ、クローゼット。魔界にもあるのね」
ただしユマの家のものとは似ても似つかない上品なクローゼットだった。年を経た分だけ色がくすみ、茶褐色に黄金を帯びた深みを醸し出している。
「覗きます……」
ユマは誰にともなく断りを入れてから、そっと引き戸に手をかける。
そこにはクローゼットの外見と同様、貴族の令嬢が好んで身につけるようなドレスがぎっしりと詰まっていた。
ユマはうなずいて一言告げる。
「……失礼しました。まちがえました」
ユマはやはり断りを入れて、ぱたんと扉を閉める。
(ここは私の部屋じゃないみたいね。どうしましょう……起きるところからやり直せるかしら)
村娘の感覚では、自分は人違いでこの部屋に案内されたと納得したのだった。
ユマはしばらく室内をさ迷っていたが、ふと寝室に隣接した居室に足を踏み入れる。
「あ」
部屋の隅にある棚の上に、ユマが昨日着てきた服が畳まれて置いてあった。
「そう、これが一番なの」
大満足でユマはそれを身につける。甘く熟した秋の木の実で色づけされた赤は、ユマの甘い風貌によく似合っていた。
ユマは衣服が落ち着いたところで、外へ出てみようと扉へ向かった。
ところが全くノブが回らず、ユマは扉の前で頭に疑問符を浮かべる。
(困ったわ。朝のお散歩が日課なのに)
閉じ込められているとは微塵も思わないユマだった。
ユマは開かないものは仕方がないと、おもむろに窓辺へ歩み寄る。
なぜそうなると言ってくれる弟はおらず、はしたないのを覚悟で大胆に窓縁に足を掛けた。
「えい!」
ユマの思った通り、蹴り飛ばせば窓は開いた。というより、無理やり開いてしまった。
ユマは涼しい風に目を細めながら外を見つめる。見下ろせばちょうど部屋の一階層下に、段上の花畑が広がっていた。
人は誰もいないが、手入れのされた花畑らしく、溝が掘られて水が流れた形跡がある。
ユマはそれを見てはしゃいだ声を上げる。
「まあ、素敵」
花というより茶色や紫の毒々しい草の集合なのだが、ユマは朝のお散歩ができれば十分と無邪気に微笑んだ。
「行きましょう!」
ユマは嬉々として、ぴょんと窓から飛び降りた。