本読む君

乱される心

○学校の体育館 (昼間)

体育館の端でうずくまっている、田辺ゆうみ(17)。
ゆうみのもとに歩み寄っていく、高身長の男子学生。

ゆうみ「つめたっ」

ゆうみの首元に突きつけられた氷袋。

男子学生の声「はい」
ゆうみ「(後ろを振り返り)え?」

無表情で袋に入った氷をゆうみに手渡す、その学生は沢田りょう(17)。

りょう「泣いてる暇あるなら、早く冷やしな」
ゆうみ「う、うん…。ありがと」

ゆうみ(M)「これが私たちの出会いだ。優しいのか冷たいのか分からないこの男に私は恋してしまったのだ」

○坂道(日替わり・朝)

ゆうみ、松葉杖をついて歩いているためサラリーマンや中学生などに追い抜かれていく。

ゆうみ「(ボソッと)最悪…」

ゆうみのことを追い抜く、学ランを着た男子生徒。
本を読みながら1人で歩いていくその生徒はりょう。

ゆうみ「ねぇ。ちょっとそこのノッポ」

ゆうみの声が聞こえないのか、無視しているのか、返事をしないりょう。
ゆうみ、松葉杖の先っぽでりょうの背中をつつく。

りょう「(後ろを振り返り)…。何?」
ゆうみ「あんたが誰だか知らないけど、昨日はありがと…」
ゆうみ「氷。氷持ってきてくれたでしょ。それに…」
りょう「うん」
ゆうみ「ありがとう」
りょう「…」

りょう、ゆうみを気にすることなく歩いていく。

ゆうみ「ちょっ…、つめた。なにあいつ」

松葉杖をうまく使えず、その場で転ぶゆうみ。

ゆうみ「も〜、ほんとついてない」

前を歩いていたりょう、足を止める。
後ろを振り返り、ゆうみの方へ向かってくるりょう。

ゆうみの目の前で背中を向けて腰を下ろすりょう。

りょう「はい」
ゆうみ「え?なに、いきなり」
りょう「(小さい声)松葉杖。」
ゆうみ「は?」
りょう「ろくに松葉杖も使えないんでしょ。乗れば」

りょう、ゆうみをおぶるようなジェスチャーをする。

ゆうみ「いや、いいって。恥ずかしい」
りょう「あっそ…」

りょう、立ちあがりゆうみの隣に立つ。

りょう「じゃ(立ち去ろうとする)」
ゆうみ「ちょっと待って。おんぶは遠慮するけど、一緒にいこ」
りょう「…」

ゆうみとりょう、並んで歩く。
りょう、隣のゆうみを気にすることなく本を読みながら歩いている。
何かを言いたげな表情のゆうみ。

ゆうみM「何なのこいつ」

ゆうみ、隣のりょうのことを見る。
ゆうみの顔が赤らむ。

ゆうみM「私をおんぶしようとした?それに昨日だって…」

何も話すことなく、並んで歩くゆうみとりょう。



後ろからスピードを出して走ってくる自転車。
バランスを崩し、自転車に接触しそうになるゆうみ。

りょう「あぶなっ」
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