スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○帰り道(夕方)
パンケーキを満喫した後、家まで送ってもらうことになった透夏。
顔は笑っていなくても、雰囲気がルンルンしている。
透夏「美味しかったですね、先輩」
朔夜「そうだな。てか、先輩呼びやめろって。一応彼女なんだから」
透夏「そうはいっても……。じゃあ天宮くん?」
朔夜「……ん、まあいいか」
少し不満はあるものの、納得した様子の朔夜。
朔夜「つーかさ、あんたなんでバイトしてるんだ?」
透夏「え?」
朔夜「単純に疑問だったんだ。バイトって、自分の欲を満たすための金を稼ぐためにするもんだろ? それなのにあんたは金を使いたくなさそうだったから」
透夏「あー。そう言えば先輩……じゃなかった。天宮くんには言ってなかったですっけ」
朔夜の前に立って止まる。。
透夏「私、パティシエになりたいの。だから専門に行くためのお金を貯めるためにバイトしているんだ」
朔夜「パティシエ……というと製菓学校とかか?」
透夏「そう。昔お父さんが洋菓子店をやっていてね。私、その姿にあこがれていたんだ。……でも」
遠くを見る。
透夏「お父さんがいなくなってからね、お母さんが女手一つで育ててくれているんだ。だからお金に余裕がなくてね」
朔夜「……女手一つ? 親父さんは……?」
透夏「……もうすぐ八年になるかな。事故でね」
朔夜「っ! ……悪い」
透夏「ううん。もう昔のことだから」
少しの間。
透夏「まあそう言う訳で。専門には進みたいけど、お金かかるでしょ? なるべくお母さんに負担をかけたくなくて、自分で稼ごうって思ってさ。叔父さんに頼み込んだの」
透夏「まあでも」
沈んでいく夕日を眺めていた透夏、暗くなった空気を上げる様に、明るく茶化す。
透夏「バレたのがあなたでよかったかも。なんだかんだ無理な要求はされていないし、ちゃんと秘密は守ってくれているし。初めはどんな要求されるのかって気が気じゃなかったんですけどね」
朔夜「なに? まさか秘密を盾に、ヒドい扱いされるかもしれないとか思ったわけ?」
透夏「思ってた」
朔夜「バーカ、しねーよ。ガキじゃあるまいし、そんなことしなきゃいけないほど女に飢えてない」
透夏「まあ、それもそうか」
女の子に囲まれている朔夜を思いだして納得。
透夏「逆に私でよかったんですか? あの中には美人で有名な先輩とかもいるでしょ? ほら、モデルやったことがある人とか……」
朔夜「バカ。ああいうやつらはオレの容姿や地位に群がってるだけだ」
透夏「そういうのって分かるんですか?」
朔夜「分かるよ。見た目だけで中身なんて見てない。その証拠に、オレの本性すら見抜けてないだろ。相手にするだけムダってもんだ」
透夏「確かに。今の天宮くんは『スイーツ王子』っていうより『ものぐさ王子』って言われたほうがしっくりくるもんね」
朔夜「あんたな。そこはフォロー入れるとかないわけ?」
透夏「いてっ」
透夏の額を小突く朔夜。
頭をさすりながら、それだけ言い切れるなんてすごいと思う。
透夏「まあ、ちょっとだけ同情するな。見てくれが良すぎても苦労するんだ。私には無関係だけど」
朔夜「そう?」
朔夜は透夏の前に回り込んで、前髪をかき分ける。
朔夜「あんたも、素材は悪くないと思うけど?」
透夏「!」
朔夜「肌はきれいだし、色白だし」
透夏「ちょ、ちょっと! 急になに」
突然の誉め言葉に赤面する。
朔夜「あっ、ほら。そうやってすぐに顔色が変わるから分かりやすいし」
透夏「さてはからかってますね!?」
ポカポカと軽く朔夜の胸板を叩く。
朔夜「いてっ。あんた、意外とすぐに手が出る よな」
透夏「誰のせいですか! 誰の!」
朔夜「見た目と違って活発的だって話。別に否定してねえよ。……さては照れ隠しだな?」
透夏「ち、違います! 別に照れている訳じゃ……」
朔夜「まあいいんじゃね? おもしろいし」
透夏「面白がらないでください!」
朔夜「はははは」
笑いながら歩いていく朔夜を追いかける。
そんな透夏の口元にも笑みが浮かんでいた。
?「…………うそ」
その後ろ姿を遠くから見つめる女の影が一つ。
その女はギリリと手を握りしめていた。