スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○人目につかない校舎裏(放課後)
足早に帰ろうとしていたところ、三人の先輩につかまり校舎裏につれてこられ、囲まれていた。
ギャル先輩1「あんた、どういうつもり?」
ギャル先輩2「なんとか言えし」
ギャル先輩3(有紗)「……」
透夏「どう……といわれましても」
両手を胸の前で上げて制止している状態。
ギャルたちは皆怒った顔で透夏をにらみつけていた。
同級生にすらあれだけ騒がれていたのだから、先輩にも話が広まっているようだ。
ギャル先輩1「なんであんたみたいな冴えないやつが、朔夜君と一緒にいたかって聞いてんのよ!」
ギャル先輩2「朔夜君は有紗と付き合うはずだったんだけど!?」
ギャル先輩二人が指すのはクール系のギャル・有紗。
美人でスタイルもよく、強そうな化粧をしている。
有紗「やめなよ二人とも。そんな感情的になったら、その子も話せないよ」
ギャル先輩1・2「「ご、ごめん有紗」」
有紗は二人を制すと、透夏の前に進み出た。
有紗「急に連れてきて悪いわね。昨日、あたしのグループの子が朔夜と一緒にいる貴方を見たって言っててね。もともと変な噂があったから、余計に敏感になっちゃってるみたいなの。あたしは別に気にしないのに」
透夏「変な噂、というと」
有紗「朔夜が貴方と付き合ってるっていう、ありえない話よ」
有紗はそう言って微笑むも、目が笑っていない。
有紗「あまりにも騒ぐから、何かの間違いだろって証明してほしくて。偶然なんでしょ?」
透夏「……えっと」
ギャル先輩1「そりゃあそうよ。だってそいつじゃ朔夜君の隣に立つ資格ないもん」
ギャル先輩2「有紗がいるんだから、ありえないよね」
有紗「そうよね。だから貴方は朔夜とは何もないと肯定してくれればいいの。そしたらあたしが間違いだったって広めておいてあげるから」
透夏「……」
有紗たちは透夏と朔夜が付き合っている事実を消したいようだ。と把握する。
透夏(秘密を守るために彼女のふりをしてます。なんて言えるわけないし……)
恐らくこういう厄介ごとを撒くために透夏を彼女に選んだのだろう。と思った透夏は、なるべく刺激しない言葉を選びつつ口を開く。
透夏「ええと、間違い……ではない、です。天宮くんとはその、お付き合いしています」
有紗「は?」
ドスの効いた声が辺りに響く。
先ほどまでとは比べ物にならないくらいの怒りのオーラが有紗から滲みでた。
有紗「貴方、自分が何を言っているのか分かってるの?」
ギャル先輩1「そうだそうだ! 見栄張ってんじゃないっつーの!」
ギャル先輩2「うぬぼれも大概にしたら? あんたみたいな地味女、朔夜君の隣に立つことすらおこがましいのよ!」
有紗「そうね。朔夜が貴方みたいな人を女として見るわけないわ。どんな手を使ったの?」
透夏「ど、どんな手って」
有紗「どうせ朔夜の弱みでもにぎって無理やりでしょう?」
透夏「まさか」
透夏(その逆なんですけど!)
まさかそんな風に言われるとは思っていなかった透夏は、驚きつつ首を振る。
有紗「は? じゃあ何? まさか朔夜があんたを選んだとでも言いたいの? それこそありえないわよ」
透夏「で、でも」
有紗「あたし、朔夜といい仲だったのよ? それなのにあんたに移るとか、絶対ありえないから。さっさと別れろ」
透夏「そう言われましても……。別に私がたぶらかしたわけでもないので……」
有紗「……はぁ? あんた、分かってないようね。朔夜は御曹司なの。あんたみたいな貧乏人が話していい人じゃないの。彼にはもっと相応しい人がいるのよ。分かる?」
透夏「? 先輩は、天宮くんに相応しいんですか?」
有紗「そうよ」
透夏「どうしてそう言えるんですか?」
有紗「あら、分からない? あたしは見ての通りスタイルもいいし、顔も整っている。雑誌の読者モデルになったことだってあるんだから」
透夏「それになんの関係が……?」
本当にわからないという顔の透夏が首を傾げる。
有紗「驚いた。本当に分かっていないのね。なら、教えてあげる。あたしはね、良心でいってあげてるのよ?」
透夏「良心?」
有紗「そうよ。だって貴方、朔夜と天地ほどの差があるじゃない。顔も、スタイルも、地位も、全部。並んでいると可哀そうに見えるの。彼と釣り合うのなんて、あたしくらいだけなのに」
透夏「でも、天宮くんは私を選んだんですよ?」
有紗「だからっ! それが間違いだって言ってるのよ! 朔夜があんたなんかを選ぶはずないでしょ!」
透夏「っ」
かっとなった有紗が透夏を突き飛ばす。
肩が壁にぶつかり、痛みで顔が歪んだ。
有紗「あたしが朔夜を助けてあげるんだから! 汚い手を使ったあんたから!」
透夏「……なるほど」
痛みに顔をしかめながらも真っ直ぐに有紗を見つめる透夏は、納得した顔をしていた。
有紗「な、何よ、その顔」
透夏「いえ。天宮くんの言っていたことがようやく分かったので」
すうっと息を吐くと、不愉快そうな顔になる。
透夏「人の話は聞かないし、自分の都合のいいことしか信じようとしない。先輩たちはそう言う人なんだなって。大方、天宮くんの話も聞こうとしなかったんじゃないですか?」
有紗「はあ!?」
透夏「だってそうじゃないですか。先輩の話では『外見』とか『地位』とか、そう言うものしか出てこないですよね。つまり先輩が欲しいのは御曹司で顔のいい『天宮朔夜』ってだけ。彼自身が好きなわけじゃない。だから彼の迷惑も考えないんだ」
有紗「何言ってんのよ!」
透夏「さっきから先輩たち、天宮くんを人としてではなくモノとして扱っているじゃないですか。気がついてませんか?」
無性に腹が立った透夏、キッと三人を睨む。
透夏「そんな考えだから、彼に振り向いてもらえないんです。……天宮くんはモノでも自分を押し上げてくれるアクセサリーでもない。一人の人間なんですよ?」
有紗「……言わせておけばっ!」
真っ赤になった有紗が手を振り上げる。
透夏(あっ、やばっ。殴られる)
衝撃に備えて目を閉じた。