スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!


 ――間――


 どれだけ待っても痛みが来ない。
 恐る恐る目を開けると、有紗の腕を掴んでいる朔夜の姿が。


 朔夜「…………なにしてんの」
 有紗「さ、朔夜。ち、違うの。これは……!」

 朔夜「……」
 有紗「い、いたっ! 朔夜、痛い!」


 透夏の姿を見つけた朔夜から怒気(どき)が出る。
 有紗の腕を掴む手に余計に力がこもった。


 有紗「違うんだって、朔夜! その子があたし達のことを……」
 朔夜「オレ、あんたたちに名前呼びを許した覚え、ないんだけど」

 有紗「え?」


 有紗の腕を振り払い、透夏の元にくる朔夜。
 後ろで有紗たちが呆然(ぼうぜん)と見ているが、朔夜は透夏だけを見ている。


 朔夜「大丈夫か、透夏」
 透夏「え、う、うん」


 朔夜は透夏の体についた土埃(つちぼこり)を払いながら、心配と怒りがない交ぜの表情になっている。


 朔夜「遅くなって悪かった。怪我は……」
 透夏「だ、大丈夫。ちょっと肩を打っただけだし」

 朔夜「……したんだな。ちょっと待ってろ」


 ぐっと堪える表情を見せ、透夏の頭を撫でる。


 朔夜「……」
 有紗「ひっ」


 くるりと振り返った朔夜は、いつもの王子様のような穏やかな雰囲気(ふんいき)ではなく、視線だけで射殺(いころ)しそうなほど(するど)いオーラをまとっていた。
 有紗たち、そこでようやく朔夜を恐れる。


 有紗「さ、さく」
 朔夜「だから、あんたらにそう呼ばれる筋合(すじあ)いなんざねぇ。何回言えば分かるんだよ」

 有紗「な、なんで……。だ、だって……。だっていつも名前で呼ぶほど仲がいいじゃない! なんで急に……」
 朔夜「オレ、あんたの名前すら知らねぇけど? 仲がいい? バカなこと言うのも大概(たいがい)にしておけ」


 ぎろりとにらみつける。


 朔夜「……あぁ、そう言えば。人の迷惑も考えずにまとわりついていた女がいたような気がするけど、それがあんた達だったりする?」
 有紗「なっ!」

 朔夜「悪いんだけどさ。オレ、自分の覚えたい人間しか覚える気がないから。今覚えてないってことは、あんたらのことなんざどうでもいいって認識(にんしき)だったわけだ」
 有紗「う、うそ……。うそよ! だって、あんなに優しく接してくれて」

 朔夜「……ああ、それ。あのキャラは外面(そとづら)的にちょうどいいかなって思ってただけだし」
 有紗「え?」

 朔夜「どうでもいいやつに本性(ほんしょう)なんてさらさないだろ? 適当にあしらうのに便利(べんり)なんだよ。ニコニコしてれば勝手に好意を向けてくれるからな。……でも」


 有紗に近づき(すご)む朔夜。


 朔夜「こいつに手を出すようなバカな奴がでるなら、話は別だ。あんたらみたいな思い上がりのクズには、上面(うわつら)の笑みすらもったいないからな」


 無表情のままガンを飛ばす。
 その剣幕(けんまく)に有紗たちは震えている。


 朔夜「スイーツ王子だなんだ言われているけど、オレは大切な相手を傷つけられて黙っていられるほど甘くない。今だって、透夏を傷つけられて(はらわた)が煮えくり返ってる。……透夏の手前だから抑えているだけで、本当はあんたらを殴ってやりたいよ」
 有紗「っ!」

 朔夜「分かったらもう話しかけてくんな。虫唾(むしず)が走る」


 泣き出した有紗たちを一瞥(いちべつ)し、透夏の腕を引いてその場を離れる。
 すでに有紗たちへの興味はなくなっていた。


 (透夏のモノローグ)



 あのまま放っておいてよかったのだろうか。
 そう思うけれど、腕を引く天宮くんの顔が泣き出しそうに(ゆが)んでいたから、何も言えなくなってしまった。


 どうしてそんな悲しい顔をしているの?

 私たちは契約上の仲なのに。

 こういう役目を期待(きたい)されているんじゃないの……?

 そんな風に悲しそうな顔をされると、どうしていいか分からなくなるよ……。


 (透夏のモノローグ終了)


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