スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
第4話 意外な接点?
○透夏の家・リビング(夕方)
前回の続き。
ドアの開く音に振り返ると、なぜかスーツ姿の母親がいた。
その目は好奇で輝いている。
母(夏凪子)「あらやだっ。透夏が男の子家に連れ込んでる!?」
透夏「お、お母さん!? え!? 今日って遅くなるんじゃ……」
母「思ったよりも早く仕事が終わったのよ。いつもご飯作ってもらっているから、今日は私が作ろうと思って急いで帰ってきたんだけど……」
透夏「っ!!」
ニマニマとした母に、思いっきり勘違いされていると気がつく。
母「あらあらあら~! これはおじゃましちゃったかしら?」
透夏「ちがっ! これはそういうアレじゃないからっ!」
母「またまた~! 恥ずかしがらなくていいのに」
透夏「本当に違うの!」
母「も~照れちゃって。そんなに顔を赤くしてちゃ説得力ないわよ!」
透夏「お母さん!」
母はイタズラっ子のような表情をして、怒る透夏を無視して朔夜の前に行く。
母「初めまして。透夏の母の水藤夏凪子です。娘がお世話になってます」
朔夜「初めまして。透夏さんとお付き合いさせていただいてます。天宮朔夜と申します」
母「やっぱり! ちょっと聞いてないよ透夏。こんなイケメンの彼氏がいるなんて~!」
透夏「だから違うって」
母「いろいろ話聞きたいな。朔夜くん、時間はあるの?」
朔夜「ええ。ぜひ」
透夏「聞いてないし……」
マイペースな母と、完全に悪乗りしている朔夜に呆れる。
母「ところでこの子またケガしたのかしら? この子、昔は男勝りでケガばっかしてきててね~。最近は落ち着いたかと思っていたのだけど……。見た所、朔夜君が手当てしてくれたんでしょ? ありがとね」
朔夜「いえいえ。でもすみません。このケガはもとはと言えばオレのせいなんで」
母「そうなの? 朔夜くんの取り合いとかかしら? まあそれも合わせて聞かせてほしいわ! ちょっと待っててね。今お茶出すから」
朔夜「ああ、お構いなく」
キッチンの方へ向かっていく母を見送った透夏は疲れた顔をした。
透夏「ごめんなさい。あの人、本当にマイペースだから。ほんと、もう全然相手しなくていいので」
朔夜「そうはいかないだろ。それに楽しいからいいよ」
しばらくして母が戻ってくると、その手にはお茶と共にアルバムが。
嫌な予感がした透夏はげえっという顔をする。
母「ねえ~朔夜くん! 透夏の小さいころの写真とか、興味ある?」
朔夜「あります」
すぐに食いついた朔夜に、透夏は頭を抱えることになった。
透夏「ちょっと、お母さん! やめてよ! 恥ずかしいじゃない!」
母「あら、いいじゃない。減るもんでもなし」
透夏「減るから! 私の気力がっ!」
母「少しだけ! 少しだけだから!」
透夏の制止もむなしく、母はアルバムを広げる。
母「ほら見て。これ透夏が初めてケーキを作ったときの写真」
ケーキの形は悪いし、うまくできなくて号泣している透夏の写真複数。
ほほえましい表情で見ている朔夜と、羞恥で死にそうになっている透夏。
母「ほらこれも。可愛いでしょ」
朔夜「ええ」
めくるたびに上達していき、笑顔で写る透夏ばかりになっていく。
朔夜「昔からパティシエを目指していたんですね」
母「そうなのよ。この子ったら、お父さんっ子でね。いつもお父さんを超えるパティシエを目指すんだって、ずーっと言ってたわ」
透夏「もう、お母さん! 恥ずかしいからやめてってば!」
母「あらどうして? 可愛いからいいじゃない」
透夏「そういうのいいから! あとお父さん子じゃない! あれは純粋に尊敬してただけ! 違うからね天宮くん!」
ファザコンだと思われたくない透夏、真っ赤な顔で朔夜を見る。
朔夜「いいじゃん。親父さんのケーキは本当にうまかったし」
母「あら、知っているの?」
朔夜「ええ。小さいころ、この街で暮らしていたことがあって。オレ、親父さんのケーキのファンだったんですよ」
透夏「そうなの!?」
初耳に目を見開く透夏。
朔夜「言ってなかったっけ?」
透夏「聞いてないよ!」
朔夜「悪い悪い。まあこの街にいたのはほんの数か月だけだけどな。会社が海外進出しだしたばっかのとき、両親とも忙しくてさ。友人宅に預けられてたんだ」
朔夜「あの頃はスイーツも嫌いだった。親はオレに構ってくれないし、家がお菓子メーカーだからさ、菓子に親を取られた気になっていたんだよな。……でも水藤さん……親父さんに会って、見方が変わったんだよ」
思いだすように上を向く朔夜。
優し気な眼差し。
朔夜「スイーツは、誰かを幸せできる。幸せを届ける宝箱だって言われてさ。それなら俺の両親も、そのために頑張っているのかって思って。なんだか誇らしくなった。だから感謝しているんだ」
透夏「そうだったんだ……」
朔夜の話に目を細めて嬉しそうな透夏。
改めて父親が誇らしくなる。
朔夜「でもまさか亡くなっていたなんて……。あなたのおかげで家族と打ち解けられたって、伝えたかったんだけどな」
朔夜ふと影を落とす。
透夏(もしかして天宮くんがこの街にきた目的って……)
朔夜の表情に、なんとなく察する透夏。
わざわざ海外からやってくるほど会いたかったのだろうと思う。
母「……そっか。あの人のファン、まだいてくれたんだ」
朔夜の肩に手を置く母。
母「ね、良ければ手をあわせて行ってくれない?」
母は奥の仏間を指さした。
朔夜「……いいんですか?」
母「その方があの人も喜ぶだろうし。透夏もいいわよね?」
透夏「うん。天宮くんがよければ」
促されて仏壇に手を合わせる朔夜。
真剣に祈っているところを見ると、嘘をついているわけではないと分かる。
透夏(まさか天宮くんとそんな接点があったなんて……)
父の話をして、思い出が蘇る。
その際、小さな男の子と遊んでいたような気がする。
透夏(あの子も、元気にしているのかな……?)
ちょっとしんみりした気分になってしまった。