スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
母「自分があのとき大人しくしていれば。あの人のいうことを聞いていれば。そんな風に思っているんだと思う」
朔夜「……」
朔夜、衝撃を受けたような顔。
母「朔夜くんは旦那の表情が乏しかったのは覚えている?」
朔夜「ええっと……確かにあまり笑わない寡黙な人、という印象はありましたね」
母「そう。だからね、あの子、旦那の代わりになろうとしているんだと思う」
朔夜「代わりに……。でも……」
朔夜には透夏が悪いとは思えなかった。
母もそれに頷く。
母「そうね。あの事故は透夏のせいではないわ。絶対に。私はあの子に旦那の代わりになってほしいとは思わない。あの子には、旦那の分まで自由に生きてほしい。……でもね」
悲し気に視線を落とす。
母「私の言葉じゃ、あの子には届かなかった。……私、あの子の前で泣いてしまったから」
母の涙を見た幼い透夏は、それ以降母の心配の元にならないように大人しくなっていった。
小さいころのお転婆はなりをひそめ、父の真似をするように表情を消していった。
まるで、父になろうとするかのように。
母「あの子、昔から責任感が強くて、変なところで空気を読むというか……。優しい子なのよ? でも、自分のことよりも人のことを優先してしまうの。だから心配でね」
朔夜「それは……わかります」
困ったようにほほえむ母に、朔夜は真剣な表情で答える。
朔夜の脳裏には、今日先輩に囲まれながらも朔夜を守るために食って掛かった透夏の姿が思い浮かんでいた。
朔夜「あいつの勇敢で優しいところも好きです。でもオレは……あいつの笑顔が好きなんです。だから笑ってもらえるように頑張ります」
それを聞いた母は、嬉しそほほえんだ。
母「ありがとう。そんな貴方だから、透夏も心を許しているんだろうね」
朔夜「そう、ですか?」
母「ええ。最近の透夏は、なんだかちょっと楽しそう。きっと朔夜くんのおかげね。これからもどうかよろしくね」
静かに頷く朔夜。
そこに透夏の声が届く。
透夏「ねえ、もうできるんだけど~」
キッチンを覗くと三人前のチャーハンを作ってどや顔をしている透夏がいる。
透夏「みてみて! めっちゃパラパラにできたんだけど!」
嬉しそうに笑っている透夏を見て、朔夜と母が顔を見合わせて噴き出す。
透夏「え、何? なんなの?」
透夏は自分が笑っていることに気がついていない。
ふとした瞬間に、本来の透夏が見え隠れしているのだ。
朔夜「いや、別に?」
母「おいしそうじゃない!」
透夏「変な二人」
透夏は二人の様子に首を傾げるも、そのまま穏やかな時間が過ぎていった。