スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
透夏「……だって」
小さな声で話し出す。
透夏「だってお父さん、私を守ったから死んじゃったんだよ? 私がはしゃいで外にいかなければ、いうことを聞いて大人しく待っていれば……っ」
自分の行動の末に父が命を落としたことを、透夏はずっと悔いていた。
透夏「お母さん泣いていた。お父さんの夢だって奪っちゃった。二人の幸せを奪ったのは……私なの」
苦し気に気持ちを吐き出す透夏は、力が抜けていき床にへたり込んでしまう。
朔夜「……だから、透夏が親父さんの代わりになろうとしていたってことか?」
頷く透夏。
透夏「奪ってしまったものは戻せない。時間だって巻き戻せない。なら、私がお父さんの代わりをしないと。……っじゃないと、私は自分が許せない」
朔夜「だから笑わないようにしていた?」
再び頷く。
朔夜「……パティシエになりたいという夢も、親父さんになろうとしていたからか?」
ゆっくりと首を横に振る透夏。
透夏「……違う。パティシエになりたいのは本当なの。ずっとお父さんみたいに幸せを分け与えられる人になりたいと思っている。…………お父さんとお母さんの幸せを奪ったのは、私なのに」
透夏「それなのに……」
嗚咽をこぼす透夏。
透夏「私、自分の夢すら諦めきれない……。そんな資格、あるわけないのに……」
透夏はずっと夢を持ちながらも、罪悪感から身動きを取れずにいた。
二人に悪いと思いながらも、夢をあきらめきれない。矛盾する気持ちを抱え続け、訳が分からなくなっていったのだ。
朔夜は崩れ落ちた透夏を抱き寄せると、落ち着かせるように透夏の頭を撫でる。
朔夜「今までよく抱えてきたな。誰にも言えないで、苦しかっただろう。……事故はあんたのせいじゃない。それだけは言い切れる」
透夏「……っ! そんなこと! だって私がわがまま言わなければ……っ」
朔夜「そうだとしても、あんたは悪くない。だからあんたはあんたらしく生きればいい」
透夏「……え?」
朔夜の言葉にゆっくりと顔を上げる透夏。
そこには慈愛の眼差しを浮かべた朔夜がいた。
朔夜「親父さんがいたら、絶対にそう言うはずだ『透夏は透夏らしく』ってな」
透夏「……!」
朔夜の言葉は父がいつも言ってくれていた言葉だった。
封印していた幼いころの父との思い出が蘇る。
(思い出)
父『スイーツは幸せをたくさん詰め込んだ小さな宝箱なんだよ。お客さんにとっても、作る側にとってもな』
幼い透夏『?』
父『お前にはまだ分からないかな。俺はな、自分が作ったもので誰かを幸せにできたなら……自分が自分でいていいって言われているようでうれしいんだよ』
珍しく穏やかにほほえむ父親。
父『こんなぶっきらぼうな俺でも、誰かを幸せにできる。会話や付き合いは苦手な俺だけど、俺らしくあろうと作ったお菓子で人を笑顔にできるなら、俺は俺を誇りに思うことができる。だからな、透夏』
優しく頭をなでられる。
父『お前もパティシエを目指すのなら、自分自身を誇れるお菓子を作れ。透夏は透夏らしく、な――』
(思い出、終了)
透夏(あぁ……。どうして忘れていたのだろう)
ぶっきらぼうでも、いつも優しい眼差しを向けてくれていた父。
その姿が今の朔夜と重なる。
次々とあふれ出す涙を止めることができずに、朔夜の胸に抱かれたまま声を上げて泣いてしまう。