スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!

 ○引き続き透夏の家(時間経過)
 泣き続けていた透夏が落ち着きを取り戻す。


 透夏「……ごめん。制服……」
 朔夜「別にいい。あんな状態のあんたを一人にしておく方が嫌だったからな」


 透夏を抱きしめていた朔夜の制服はぐしゃぐしゃにぬれていた。
 こんなに泣いたのは父がいなくなってから初めてだった。


 朔夜「もう落ち着いたか?」
 透夏「う、うん」


 ゆっくりと体を離すと、透夏の顔を見る朔夜。

 朔夜「親父さんは暴走車からあんたを守った。自分の安全よりも、透夏の方が大切だったんだ。だから、あんたが笑わなくなるのは本意じゃないと思う。違うか?」
 透夏「……うん。お父さんなら、そう言うと思う。そんなことも忘れちゃっていたんだね」

 朔夜「なんでも頑張ろうとするのはいいことだけどな、あんたは自分だけで解決しようとし過ぎなんだ。もっと周りを頼れ。んで相談しろ。いいな?」
 透夏「……うん」


 グイっと(そで)で頬を(ぬぐ)う透夏。
 そこに今まであった後ろめたさはもうなかった。


 透夏「ありがとう。私、お母さんとも話してみるよ」
 朔夜「ああ。それがいいだろうな。夏凪子さんもずっと心配していたみたいだし」

 透夏「そっか。……私、見ているつもりで見えていなかったんだね」


 自分の(あやま)ちに気がついた透夏はしょんぼりと肩を落とす。


 朔夜「ま、オレも応援しているからさ。何かあったら相談くらいのれるし」
 透夏「ふふ、ありがとう。優しいところもあるんだね」


 心からの笑みを浮かべた透夏にほっとする朔夜は、茶化(ちゃか)すように明るい声を出す。


 朔夜「オレはいつも優しいだろうが」
 透夏「あはは。そうだね」

 朔夜「なんだよ。()れた?」
 透夏「……それとこれとは話が別です」

 朔夜「それは残念」


 朔夜の爽やかな笑みに、今まで感じたことのない感情が芽生え始めた瞬間だった。


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