スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!

第6話 お祭りデート


 ○透夏(とうか)の家の前(夕暮れ~夜になる手前くらいの時間)
 浴衣(ゆかた)姿で家の前に立つ透夏は、しきりにまとめ上げた髪を気にしている。


 透夏(うう……。これは気合入れすぎたかなぁ?)


 少しでも可愛いと思ってもらいたくて、いろいろな浴衣を試した結果、黒地に華やかな(がら)があしらわれた浴衣になった。
 いつもはひとつ縛りの髪も、編み込みをしてアップスタイル&しぼり細工(ざいく)のかんざしをつけている。

 ばっちりと決めすぎたかと思うが、首を振って考え直す。


 透夏(ううん。これは……そうせっかくの祭りだからよ! 他の人もきっと着飾っているはずだし、浮いていないはず! だから浮かれていたわけじゃない!)


 自己弁明(じこべんめい)をしていると朔夜(さくや)がやってくる。


 朔夜「お待たせ。外で待ってたんだ」
 透夏「っ!」


 声の方を見ると、濃いグレーの浴衣を来た朔夜がいる。
 透夏はその姿に言葉を忘れてしまう。

 (あさ)の浴衣でさらさらした感じの浴衣(質が良さそうなもの)。
 小粋(こいき)なモダン柄の浴衣だったが、見事に着こなしている。


 朔夜「透夏も浴衣着てくれたんだ。……うん。よく似合ってる。可愛いよ」
 透夏「!」

 朔夜「そのかんざしもいいね。そう言えばいつもつまみ細工のブレスレットしてるよね。好きなの?」
 透夏「あっ、ありがとう。えっと、よく気がついたね」

 朔夜「そりゃあ、好きな相手だからな」
 透夏「っ」


 ストレートな誉め言葉に顔が熱くなる。


 透夏(こんな感じだったっけ!?)


 今までの朔夜と違う近い距離感(きょりかん)にオドオドするが、必死に会話をつなごうと言葉を出す。


 透夏「え、えっと。手先を使うのが好きで……。つまみ細工は両親に教えてもらったものだから……」
 朔夜「え? じゃあもしかして、それも手作り?」

 透夏「う、うん。一応(いちおう)
 朔夜「へえー! すごいな! そっちのブレスレットも?」


 指摘されたブレスレットは少し布の色が()せている。
 透夏はブレスレットを指でいじると、懐かしむように目を細めた。


 透夏「あっ、うん。これは昔、家族みんなで初めて作ったお気に入りなんだ」
 朔夜「そっか。思い出が詰まってるからいつもつけてたんだな」

 透夏「うん。……気がついてくれて、嬉しいよ」


 ほほえむ朔夜。
 それにまた心臓が高鳴る。


 朔夜「じゃあ、そろそろ行こうか」


 すっと手を差し出され、おずおずと手を出すと絡められる。
 そのまま会場へと移動する。



 電車の中では祭りに向かう人ごみに揉まれるも、朔夜が体で空間を作ってくれた。
 密着すると朔夜の香りがしてきて変に意識してしまい、赤面が止まらない。

 電車を降りた後、それを指摘される。


 朔夜「あれ? 暑かった?」
 透夏「え!? あ、そ、そうかも!?」


 慌てて答えるも、何かを察した朔夜はにやにや顔になる。


 朔夜「……どうせ浴衣姿のオレで変な妄想(もうそう)とか、してたんでしょ?」
 透夏「ち、違うから!」

 朔夜「ははっ、冗談(じょうだん)だって」
 透夏「なっ! か、からかったな!?」

 朔夜「はははっ!」
 透夏「~~もうっ!」


 怒りつつも、結局許してしまう。
 感じていた緊張(きんちょう)も、いつの間にか取れていた。


 透夏(……もしかして、気を遣ってくれたのかな)


 いつもさりげなく自然体で居られるようにしてくれていたことに気がつき、嬉しくなる。


 朔夜「ほら、いろいろあるみたいだぜ。早く行こう」
 透夏「……うん!」


 お祭りの空気の中に入っていく。
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