スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○人気の少ない木々の間から空がきれいに見える穴場スポット
腕を引かれて連れていかれるのは、花火を近くで見ようとする人の流れとは反対方向。
大人しくついていくと、ついたのは人気のすくない木々の中。
そのちょうど中心に、空がきれいに見える場所があった。
木々のシルエットが枠を作り、空に浮かぶ花火が絵画のように美しく見える。
朔夜「ここならゆっくり見られるだろ」
透夏「もしかして……わざわざ探してくれたの?」
朔夜「どうしても二人で見たかったからな」
そう言う朔夜の顔を花火が照らす。
透夏(あれ……。なんだろう。前にも、こんなことがあったような……)
キラキラと煌めく光に彩られた朔夜の顔が、小さなころの記憶と重なった。
朔夜「透夏?」
透夏「……ううん。なんだか、懐かしくなっちゃって」
朔夜「懐かしい?」
透夏「うん。昔にも、迷子の男の子と出会ったことがある気がして」
懐かしそうに目を細める透夏が朔夜を振り返る。
透夏「懐かしいなぁ。そのときも、今日みたいに花火が上がった日だったなぁ。なんか、急に思いだしちゃったの。……花火みたいにきれいな思い出だからかな」
朔夜「透夏……」
透夏「ん?」
朔夜がなにかを言いかけると、ひと際大きな花火が上がる。
すると花火に透夏の気を取られてしまう。
透夏「うわー! すごい大きかったね! きれい!!」
子供のように大はしゃぎで手を叩き空を見上げる透夏を見つめる朔夜。
視線は透夏から外さずに、「……そうだな。きれいだ」とつぶやく。
――しばらく花火が上がっている――
(透夏のモノローグ)
打ちあがる花火を見ていた。初めは、だけど。
私は次第に隣にいる天宮くんに視線を奪われていった。
花火の光に照らされて、キラキラ光る横顔に。
きれいな肌。大きな手。隣り合う肩。
そして――私を見る、優しい瞳。
そのすべてに、思いが溢れていく。
透夏(ああ、やっぱり……この気持ちは……)
どうやら、もう観念するしかないみたいだ。
――好きに、なってしまったと。
(透夏のモノローグ終了)
花火が終わりがけ、朔夜は透夏の方を振り向く。
朔夜「もうそろそろ終わりかな。……って、どうした? そんな顔し、て……」
背伸びをした透夏の唇が、朔夜の頬に当たる。
目を見開く朔夜。
朔夜「……え?」
透夏「――……っ!」
透夏「っわ、私、一体……なにを!?」
透夏は完全に無意識だった。
朔夜の声に我に返った透夏、ハッとした顔で唇を押さえたのだった。