スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!

 透夏「天宮くん! ち、血が!」

 朔夜の痛々しい傷に、泣きそうになりながらも駆けよる。
 ケガの様子をみようと、そっと手を伸ばすとその手を掴まれる。


 朔夜「大丈夫だった!?」
 透夏「だ、大丈夫。……でも天宮くんが」

 朔夜「オレのことはいいから。どっか痛くない?」
 透夏「……うん」


 透夏の顔を(のぞ)きこみ、心配する朔夜。
 透夏にケガがないと分かると脱力(だつりょく)する。


 朔夜「そっか。よかった……」
 透夏「ご、ごめんね。私を(かば)ったばっかりに……」

 朔夜「別に透夏のせいじゃないだろ。嫌がる女を無理やり連れて行こうとしたあいつらが悪い」
 透夏「でも……、私がぶつかってお酒をこぼしちゃったから……」

 朔夜「相手方は服も汚れていなかったし、謝罪の意味でいえば酒を買う金とその手間代を払えばいい。それなのにあいつらは透夏を連れて行こうとした。明らかに等価にはならないだろ」


 透夏を掴んだ朔夜の腕に力が(こも)る。


 朔夜「……つーかあいつら、透夏のことブスって言いやがらなかった? それに肩を抱きやがったし」


 いつになく鋭い視線。
 殴られたことよりも透夏への罵倒(ばとう)に怒っていた。


 透夏「そんなの、どうでもいいよ」
 朔夜「いーや、よくないね。絶対許さねぇ」

 透夏「……」


 ふと肩を掴まれ目線を合わされる。


 朔夜「ていうか透夏も!」
 透夏「へ?」

 朔夜「危ないだろ! 周りがいつもより明るいとはいえ、今は夜なんだ。祭りで気分が大きくなっている(やから)だっている。オレから離れてくれるな」
 透夏「ご、ごめんなさい……」


 あまりの剣幕(けんまく)(ちぢ)こまる透夏。
 それを見て朔夜気まずい顔になる。


 朔夜「いや、悪い。怖がらせたいわけじゃないんだ。ただ、透夏が危ない目に遭いそうになっているのをみて、気が気じゃなかっただけで……」
 透夏「うん。……ごめんなさい」


 言いたいことは十分に伝わって来ており、素直に反省(はんせい)する透夏。


 朔夜「まったく……。透夏のおてんばは昔のままみたいだな」


 朔夜はため息をつきながら、透夏の頭に手を置く。


 朔夜「活発(かっぱつ)なのはいいが、オレの目の届かないところには行かないでくれよ」
 透夏「……」


 朔夜の手の優しさに忘れていた恐怖(きょうふ)心が(よみがえ)り、涙ぐむ透夏。


 朔夜「ああ、ほら。泣くな。もう大丈夫だから」
 透夏「……グス」


 恐怖の涙だったが、次第に朔夜がいる安心の涙になる。


 透夏(なんだか天宮くんの前で、泣いてばかりいるな……)


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