スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○時間経過
透夏の涙が止まるまで、ベンチで休むことに。
いつの間にか花火大会は終わっており、人も先ほどより減っていた。
朔夜「収まった?」
透夏「……うん。ごめん」
朔夜「いいって」
謝り続ける透夏をあやすように撫でる朔夜。
透夏も目元は赤いままだったが、落ち着きを取り戻した。
夏の夜の風が、二人の間を通り抜けた。
朔夜「……あー。それでさ。聞いてもいい? さっきのこと」
透夏「……さっきの、って」
朔夜「なんでキスしたの?」
透夏「!」
酔っ払いに絡まれた衝撃でごまかされてくれるかと思っていたが、朔夜はごまかされてはくれないと悟る。
あの時のことを思いだすとみるみる赤くなっていき、黙り込んでしまう。
朔夜「……オレのこと、好き?」
透夏「っ!」
図星をつかれ、さらに赤くなっていく。
潤んだ目と首まで広がった赤を眺めた朔夜がふっと笑った。
朔夜「分かりやすくて、かわいいな」
透夏の頬に掛かった髪を耳にかけてやる朔夜。
その目は愛しいものを見つめる目、そのもの。
朔夜「オレも好きだよ」
透夏「!」
透夏はその言葉におずおずと顔を上げる。
上目遣いに見上げられた朔夜がごくりと喉を鳴らす。
朔夜「……あんまり、煽らないでくれるかな。じゃないと――」
たまらないという顔をした朔夜はごまかすように額へとキスを落とした。
朔夜「オレも男だからさ。そういう表情されるとぐっとくるって言うか、理性がやばいって言うか……。そういう顔を見せるのは、オレだけにしてね?」
言われた意味と額へのぬくもりを意識してしまった透夏、恥ずかしさから涙を浮かべ、朔夜の胸に顔を寄せる。
透夏「…………こんな顔、他の人になんて見せられるわけないよ」
朔夜「っ」
朔夜は再びぐっとこらえる表情になり、顔を覆ってしゃがみ込んだ。
朔夜「はああ。……そういうところ」
透夏「え?」
朔夜「透夏は本当に、無意識に煽るのがうまいんだよ」
何がダメだったのか分からない透夏は首を傾げる。
朔夜は諦めたようにため息を吐いた。
朔夜「ほんと、先が思いやられるよ。……まあでも、手を出したら親父さんに怒られるだろうから。今は我慢するけどさぁ……。これくらいは許してほしいね」
透夏をぐっと引き寄せ唇へと触れるだけのキスをする。
透夏「!!」
透夏は唇を押さえてパニックに。
朔夜はイジワルな顔をしている。
朔夜「こういうことしたくなるから、あんまり可愛い反応はしないでね?」
黒い笑みを乗せた朔夜だったが、透夏はその耳が赤くなっていることに気がつく。
見ていると、じわじわと赤が首筋まで移っていった。
朔夜「……あーー。恰好つかねぇな」
朔夜もその熱を認識しており、恥ずかしそうに首を掻いた。
少し拗ねたような声色で見上げられた透夏、思わず笑みがこぼれてしまう。
朔夜「……なんだよ。好きな相手とキスすれば、オレだって照れる。別に余裕があるわけじゃないんだよ。大事にしたいけど抱きしめたくなるし、キスもしたくなるし、それ以上も……」
透夏「! エ、エッチ!」
予想外の言葉に動揺する透夏だったが、朔夜はむしろ開きなおった。
朔夜「当然だろ。ずっと好きだった相手だ。触れたいと思って何が悪い」
透夏「ず、ずっとって、だって私、本当に覚えてないのに……。その、こんな私をずっと好きでいてくれたのはなんでなの?」
朔夜「……それ、聞いちゃう?」
透夏「だ、だって」
朔夜「何にでも理由を欲しがるのは相変わらずだな、なっちゃん?」
透夏「え……?」
朔夜「透夏の夏。だからなっちゃん」
透夏「なっちゃん」という呼び方に覚えがあった。
幼いころに家族間でそう呼んでもらっていたのだ。
頭の中で靄が晴れていくような感覚を覚える。
(小さいころの記憶 回想)
小さい透夏『トーカの一番好きな季節なの! だからパパとママはなっちゃんって呼んでくれているんだよ!』
小さい透夏『この呼び方は家族だって証なの! だからあなたもそう呼んでいいよ! ね――』
(小さいころの記憶 終了)
透夏「あ、天宮くん……。まさか……やっくん!?」