スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
 (朔夜のモノローグ)


 幼いころからオレの両親は世界を飛び回っていた。
 だからずっと一人だった。
 親父の友人の家に預けられていたけれど、家族ではないから疎外感(そがいかん)がずっとあった。


 だからこそ透夏にそう言われたときは、心が救われた。
 オレの不安を、一声で取り払ってくれた。居場所(いばしょ)を与えてくれた。

 彼女の両親もオレのことを本当の子供のように受け入れてくれた。
 あんなに穏やかな時を過ごしたのは初めてだった。

 両親の仕事に理解を示せたのも、この時間がなかったら無理だっただろう。


 たったの二月(ふたつき)出来事だった。
 事業が安定して両親が迎えに来るまでのわずかな時間。

 それでも十分(じゅうぶん)すぎるほど、いろいろなものをくれた。
 オレが前を向くきっかけは、全てあの家族がくれたのだ。



 だからまた絶対に会いにこよう。
 どれだけ時間が経っていようが見つけ出し、お礼を言いたい。

 そう決意した。


 思えばこの時から、オレは透夏のことが好きだったのだろう。


 だから親父(おやじ)に無理を言って、一年だけ日本に戻ってきた。
 親父の後を継ぐという夢に向かって(はげ)みつづけていると、透夏に示したかったから。


 そして、あんたを見つけた。
 一目で分かった。


 でもあんたから笑みが消えてしまっていた。
 オレに笑みを戻してくれたあんたから。


 だから強引に接点を持つことにした。
 あんたがそうしてくれたように、今度はオレが笑みを贈る。

 それが透夏への精いっぱいの恩返しだから。


 もしもあんたが忘れていたとしても、あの時間がなくなるわけじゃない。
 ……この気持ちが、変わることはないから。


 (朔夜のモノローグ 終了)

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