スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○祭りのベンチ(現在)に戻る
透夏に『やっくん』と呼ばれ、二人の間を風が抜けた。
朔夜は少し目を潤ませて首を傾げる。
朔夜「……やっと思いだしてくれた?」
透夏「え、え!? 本当にやっくん? あの泣き虫やっくん!?」
朔夜「そうだよ。泣き虫で弱虫だったやっくん。オレ、頑張ったの。早く一人前になって、透夏を探したかったから」
透夏「うそ……。全然わからなかった」
朔夜「結構変わったでしょ」
透夏、朔夜の全身を見渡す。
透夏「うん。昔のやっくんは私より小さいイメージしかなかったから……」
朔夜「成長期だったからな」
朔夜の体はほどよく鍛えられており、細マッチョ。
朔夜「ね。小さいころの約束、覚えてる?」
透夏「約束?」
朔夜「そ。家族になるってやつ」
記憶を掘り起こす透夏。
透夏「……あ~。夢に向かって頑張っていれば仲間だってやつ?」
朔夜「そう、それ。覚えてたんだ」
嬉しそうな朔夜に対し、申し訳ない表情になる透夏。
透夏「ごめん。ちょっと前まで忘れていたの。……その、お父さんのことで頭がいっぱいで」
朔夜「親父さんのことがあったからな。仕方ないさ。思いだしてくれただけで十分」
透夏「天宮くん……」
朔夜、ニッと笑って。
朔夜「でもオレは思い出だけで終わらせようとは思ってない」
透夏「え?」
朔夜「幼いときの約束なんて所詮は口約束だけどさ、オレは、それを現実のものにしようとしているんだ。この意味、分かるか?」
透夏を真っ直ぐに見つめる朔夜。
透夏は意味を理解してくるとじわじわと赤くなっていく。
朔夜「……その反応だと惚れさすのも時間の問題みたいだね。楽しみにしてる」
透夏「……! まって。アレはそう言う意味で言ったやつじゃ……」
朔夜「分かってるよ。でもどういう意味にするのかは、オレが決める」
ベンチから立ち上がり、透夏の前に回る朔夜。
透夏の顎をもち上げて、顔を合わせる。
朔夜「オレの想いを知ったからには、覚悟しておいて。……その口から、オレへの気持ちを告げてもらうから」
透夏「……っ!」
透夏の頬を撫でた指が、そのまま唇をなぞっていく。
朔夜の顔はとんでもなく甘く、けれども獲物を逃がす気はないと如実に訴えていた。
透夏(……ああ。本当に厄介な人に捕まっちゃったなぁ)
朔夜からは逃げられない。
きっと私を逃がしてくれるほど甘くはないのだろう。
けれどもそれを嫌と思わない自分に気がつき、クスリと笑みをもらした。
そして祭りの夜は過ぎていく――。