スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○透夏の家、お風呂場
お風呂につかりながら今日のことを思い浮かべる透夏。
透夏(……天宮くん、あんなこと言っていて、私のことは遊びだったの?)
許嫁の存在を、透夏は初めてあの場で知った。
自分のことを本当に大切に思ってくれているのなら、どうして話してくれなかったのか、という疑問が浮かぶ。
透夏(契約で始まった関係だから? 確かに、あのきっかけがなかったら、関わることなんてなかったはず)
お互いのことを思い浮かべる。
朔夜はお金持ちで、自分は貧乏で。住む世界が違いすぎる人間だと、改めて思う。
透夏(……それでも。それでも私は、好きになってしまったから)
好きになったことを後悔なんてしたくない。
好きになっちゃいけない人だった、なんて思いたくない。
……でも。
透夏(……真村君の言うことも分かる。確かに今のままじゃ、完全に信用なんてできないよ)
どうしても婚約者がいたという事実が重くのしかかる。
この堂々巡りが、いつまでたってもやめられないでいた。
お風呂のお湯に顔を半分沈め、ブクブクとする。
透夏「あーもう! 分からん!」
沈んだ考えを振り払うようにザバリとお風呂から出る。
いつまでも考えていたらのぼせてしまうと思ったから。
透夏「って言うか、かゆい! もう! いつの間に刺されたの!? 今日は嫌なことばっかり起きるんだから!」
どうやら公園で話している間に首を蚊に刺されていたらしい。
透夏「もういいわ! こうなったら明日以降、徹底的に探ってやるんだから!」
半ばキレていた透夏はそう決心する。
そのままの勢いで寝支度を整え、ベッドに入る。
そうしてウトウトしていると頭に浮かんだのは彰のことだった。
透夏(……でも、真村君の告白には驚いたな。私なんかを好きでいてくれたんだ)
これまでの透夏には、話ができるクラスメイトは彰しかいなかった。
透夏(もちろん、私はそういう目で見たことはなかったけど……)
彰はスポーツが得意で、さっぱりとした性格だから女子からの人気もある。
クラス長に立候補するほど責任感も持っている。
正直に言えば、かなりいい人だった。
透夏(そんな人が、どうして私なんか……)
分からないことだらけだ。
朔夜のこと、そして彰のこと。
考えるのに疲れた透夏はそのまま眠りに落ちていく。
透夏(……ちゃんと考えないと……でも)
気持ちに整理がつくまでは、どちらとも顔を合わせづらいなぁ。
そう思いながら今度こそ眠りについたのだった。