スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○帰り道(夕方)
一日中朔夜を避け続けていたら、いつの間にか放課後に。
このまま帰宅すれば顔を合わさずに済む。と考えた透夏は、帰り道を足早に進んでいく。
と、後ろから走ってくる音が聞こえた。
透夏「……!」
振り返るとやはり朔夜が走っていた。
反射的に逃げ出してしまう。
朔夜「おい! 待ってって!」
とはいえ朔夜の足の速さにはかなわず、腕を取られてしまった。
その瞬間、透夏の頭を埋めつくしたのは別れ話を切り出されるかも。という恐怖心だった。
透夏「! やだっ! 離して!」
朔夜「離さない。頼むから、オレの話を聞いてくれ!」
必死の抵抗も虚しく、向き合うことに。
けれども朔夜の顔は見ない。
透夏「話って……許嫁がいるんでしょ? 私に構ってる暇なんてあるの?」
朔夜「誤解なんだ!」
透夏「……誤解って、何が。私を好きって言ったこと?」
朔夜「違う! そうじゃなくて」
透夏「じゃあなんだって言うのよ!」
ようやく顔を上げた透夏は泣きそうな顔で朔夜を睨む。
透夏「許嫁がいながら黙っていたのはなんで!? 後ろめたい気持ちがないのならいうはずでしょ!?」
朔夜の顔を見たら、考えていた言葉が口をついて出てしまう。
透夏(違う。こんなこと言いたいわけじゃないのに……)
そう思うも、一度出てしまった言葉が止まることはない。
透夏「あんなこと言っておきながら、私のことは遊びだったの!?」
もうどうにでもなれ、と思い心のうちに巣くっていたごちゃごちゃした感情をぶちまける。
その間朔夜は黙って聞いていた。
朔夜「……あいつは」
透夏の疑問を全て受けた朔夜がようやく口を開く。
と、急な大雨が降り出した。
雷もなり、大粒の雨が二人を打つ。
朔夜「っ! あそこ! あそこで雨宿りしよう」
そのまま立っていてはぬれ続けるので近くの路地裏にある屋根へと避難する(透夏の腕をひいて)。
朔夜「参ったな。しばらくやみそうにないか」
路地裏の屋根は二人が入るとぎりぎりくらいの狭さで、お互いの肩が触れ合う近さ。
びしょ濡れなった二人は服や髪を整える。
透夏「……」
朔夜「……」
近い距離にいるのに、沈黙だけがその場を支配する。
透夏は何も口にするつもりはない。一方の朔夜はタイミングを見計らっている。
朔夜「……あいつとは、なんでもないんだ」
しばらくすると沈黙に耐えかねた朔夜が口を開いた。
透夏「……」
朔夜「あんた、勘違いしているだろう」
透夏「……勘違い?」
モヤモヤとした気持ちのまま朔夜を見上げる透夏。
透夏「家の都合があるんでしょ。あなたは大企業の社長息子だもんね。貧乏学生の私とは一生関係なかったはずのお坊ちゃんだから」
透夏「どうせ私との関係は契約だったわけだし、婚約者でも許嫁でもいてもいいと思っていたんでしょ? いいよ別に。契約で恋人のふりをしている私には関係ないもん」
本心ではなかった。
朔夜から逃げ回っていたのも、別れを切り出されたら、という恐怖からだったから。
けれど拒否されたら、と思うと落ち着いていられず、朔夜の言葉を遮りトゲトゲした言葉を浴びせてしまう。
朔夜「……あんた……オレが他の奴のものになってもいいの?」
本当に悲しそうな呟きが、頭上から聞こえてきた。
その声に透夏は今日初めて朔夜の顔をマジマジと見つめる。
透夏(……どうして、天宮くんがそんな顔をするの)
透夏の言葉に傷ついた表情をした朔夜がいた。
透夏(傷つけたいわけじゃない……でも)
自分もわけわからない状態の為、向き合っていられずに目をそらし、後ろを向く。