スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!


 朔夜「…………は?」
 透夏「!?」


 後ろを向いてすぐ、朔夜は低くつぶやいた。
 何かと思えばすぐ横に手を置かれ、(かべ)と朔夜に(はさ)まれる形になる(透夏は後ろを向いたままの状態で朔夜に壁ドンされている)。


 透夏「あ、天宮(あまみや)くん?」
 朔夜「……」


 朔夜は何も言わずに透夏の首筋に触れた。


 透夏「っ!」
 朔夜「……これ、誰にやられた?」

 透夏「な、なに……っ」


 雨に濡れた髪が避けられ、(あらわ)わになった首筋の一点を指で押される。


 朔夜「……なるほど。もう新しい男を作ったってわけ?」
 透夏「何言って……」

 朔夜「でも残念(ざんねん)。オレはあんたを離してやるつもりはない」
 透夏「っぁ」


 途端(とたん)、首筋に鋭い痛みが走る。
 そして温かいものが首を()感触(かんしょく)で肌が粟立(あわだ)った。


 透夏「やっ!?」


 透夏は、朔夜にキスマークをつけられていた。
 首元に触れる髪がくすぐったいけれど、その下は痛くて、訳が分からなくなる。

 慌てた透夏が身を捩るも、壁と朔夜の体に挟まれていて動くことができない。


 透夏「や、やめて!」
 朔夜「やめない」

 透夏「ま、そこでしゃべらな、いで……っ!」


 止めようとすると再び(あと)を付けられる感触がある。
 熱い吐息(といき)(ほの)かな痛みが首筋に走るたび、なんだか辛くて泣けてきてしまった。



 透夏「……っくぅ、ぐす」
 朔夜「!」


 嗚咽(おえつ)をもらすと朔夜がぴたりと止まる。
 体が解放された透夏は泣きながら朔夜(ハッとした表情の)を睨んだ。


 透夏「なんで……こんなことっ」


 これ以上朔夜を見ていられず、雨にも構わずに逃げ出す。
 今度は追ってくる足音はしなかった。


 ――間――


 残された朔夜、一人で頭をぐしゃりとかきあげ、壁を背にしゃがみ込む。


 朔夜「なにやってんだ、オレは」


 つぶやかれた言葉は後悔(こうかい)(にじ)むものだった。

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