スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!

 ○朔夜の家の前(夕方)
 朔夜の家の住所(じゅうしょ)を教えられ、仕方がなく向かうと高級マンションだった。
 明らかに高そうな入口で透夏は顔を青くしながら固まっている。


 透夏(結局(けっきょく)、来てしまったわけだけど……)

 透夏「ここに一人暮らしって……」


 セキュリティは高そうだし、そう意味では安心ではあるものの、絶対に一人暮らし向けではない。
 透夏は広い部屋に一人でぽつんとしている朔夜を思い浮かべ、切なくなる。


 透夏(……! 違う違う! とにかく早く渡して帰ろう)


 頭を振って同情(どうじょう)を振り払うと中へと足を踏み入れた。

 ――ピンポーン

 来客を知らせるチャイムが鳴り、しばらく待つとつながる音がした。


 朔夜「……透夏、……なんで」


 インターフォン越しに聞こえた朔夜の声はガサガサだった。


 透夏「……学校からのお届け物で」


 そう答えるとすぐに入口の自動ドアが開き、招きいれられる。
 部屋の前に行くと、すぐに朔夜が出てきた。


 透夏「っ……」
 朔夜「透夏……」


 朔夜は透夏の姿を目にすると抱きしめる。


 朔夜「悪かった。昨日のオレ、どうかしていた。ごめんな。……でも、オレから離れないで。一人に、しないでくれ……」


 抱きしめられるとちょうど胸の高さに耳が当たり、朔夜の鼓動(こどう)が聞こえてくる。
 切なげな声と、鼓動の音で透夏も泣きそうになってしまう。


 透夏「……どうして」
 朔夜「……」

 透夏「どうして天宮くんがそんな顔をするの……?」
 朔夜「……」

 透夏「……天宮くん?」


 声をかけても一向に応えない朔夜に(いぶか)しんで顔を上げると、朔夜の体がぐらりと揺れた。


 透夏「!?」


 そのままだと地面にぶつかってしまうので慌てて支えると、朔夜の体も頭も熱いことに気がつく。


 透夏「すごい熱……!」


 朔夜は意識(いしき)がもうろうとした状態だった。
 立っているのもやっとで、恐らく透夏の言葉もほとんど聞こえていないのだろう。

 けれどもうわごとでずっと透夏の名を呼んでいる。


 透夏「天宮くん? 天宮くん! しっかりして! 天宮くん!!」


 透夏の(あせ)った叫び声が響いた。



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