スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
第11話 風邪と決意
○前回の続き(透夏の焦った叫び声)から
汗で髪が張り付いた額に手を当てて体温を確認すると、触って分かるほどの高熱を放っている。
透夏「とにかくベッドに運ばないと……!」
体格差がある為引きずってしまいながらも部屋の中に入っていく。
なんとかベッドに乗せると、水分を取らせるためにキッチンへ。
透夏「……なんにもない」
悪いとは思いつつ冷蔵庫を開けると、ほとんどど何もない状態だった。
辛うじてその隣にウォーターサーバーはあったので、適当なコップを出して水を持っていく。
透夏「ほら、お水とって」
朔夜「……ぅん」
起き上がるのも怠いようなので透夏が支えてあげながら飲んだのを確認。
透夏「薬はのんだ?」
朔夜「……のんでない。なかったから」
透夏「常備していないの?」
こくんと頷かれたのでため息をつきながら立ち上がる。
透夏「じゃあ私買いに行ってくるから、ちょっと待ってて」
踵を返そうとすると腕を掴まれた。
朔夜「……いかないで」
ほとんど意識がないのに、透夏が離れていく気配には敏感らしい。
透夏「大丈夫。すぐに戻るから」
透夏はそっと離させ(力が入っていないから透夏でも振りほどけた)、近くの薬局へと向かった。
(時間経過 薬局から帰ってくる透夏)
買ってきた冷えピタをおでこに張ると、朔夜が目を覚ます。
透夏「あ、起きた?」
朔夜「……」
朔夜は熱に浮かされた顔でぼうっと透夏を見ている。
透夏「ゼリー買ってきたけど、食べれる? 薬飲む前に少しでも食べたほうがいいから」
朔夜「……ん」
透夏「え?」
そう言うと口を開けて待っている朔夜。
透夏「……コレ食べたら薬飲んで寝てね」
いつもの余裕のある姿からかけ離れたひな鳥のような姿に、なぜかキュンとしてしまう。
とりあえず食べる気はあるらしいので、思うところはあったけれど食べさせてあげることにした。
透夏「ふう」
ゼリーを一つ完食し、薬をのむと少しだけ楽になったようで、ようやく眠りについた。
透夏(目が覚めたときに体ふけるように、濡らしたタオルとか用意しておこうかな……)
もともと面倒見のよい透夏はテキパキとやれることをやっていく。
そうこうしているうちに外も暗くなっていた。
透夏「もうこんな時間……。どうしよう、もう帰っていいのかな……」
『行かないで』と言った朔夜のことを思い、迷う透夏。
改めて部屋の中を見渡す。
一人で住むには広すぎる家なのに、家具も少なく、本当に最低限のものがあるだけという印象。
透夏「……ん?」
そんな部屋の中で、机の上に飾ってある写真立てに気がつく。
幼いころの家族写真だった。
ふてくされたような顔のものから、満面の笑みのものまで様々だが、全て大切に飾られていた。
透夏「これ……」
その中に自分との写真もあるのに気がついた。
朔夜の誕生日を祝っているところの写真だった。
透夏「懐かしいな。……ずっと飾ってたのかな」
触っても埃一つつかないほど磨かれている写真立て。
その中身は色あせもほとんどなく、多くの写真の中でもことさら大切にされていたようだ。
透夏(昔の写真をこんなに大切にしているなんて……)
ほんの数か月だけ遊んでいた人を覚えているだけでもすごいのに、数年前の写真をきれいな状態で持っていてくれたことで、自分のことをずっと好きだったという言葉が現実味を帯びる。
朔夜「――透夏」
透夏「!」
ふと呼ばれた声に驚き振り返ると、朔夜はまだ寝ていた。
寝言だったようだ。
透夏(……)
夢の中でさえ、自分を思っているような寝言に、心臓が締め付けられる。
透夏「……どうして言ってくれなかったの?」
婚約者の存在があったとしても、教えてくれていたとしたら、きっと朔夜の言い分も素直に聞きいれられたはずだ。
それなのに……。
朔夜の寝顔を少しだけ見る。
薬が効いてきたのか、先ほどよりも寝苦しくなさそうだった。
透夏(……前だったらずっと見ていられたんだろうな)
けれど許嫁の存在を知った今では、朔夜の顔を見るたびにあの美少女の顔がちらついて仕方がない。
胸が苦しくて見ていられなくなってしまった。