スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
透夏「……そうだ。お母さんに連絡入れておかないと」
写真を見ていたらさらに時間が経ってしまった。
今から家に帰るにしても、夕飯を作る時間はないだろう。
透夏はスマホを取り出し連絡を入れた。
するとすぐに着信を知らせる音が鳴る。着信画面には【お母さん】の文字。
透夏「!」
思ったより大きな音が鳴り、朔夜の眠りを妨げないかが心配だったが、幸いなことに起こすことはなかった。
念のため部屋の外に出てから通話ボタンを押す。
透夏「もしもし、お母さん?」
母『あ、透夏? メール見たわよ。朔夜くん風邪引いたって?』
透夏「うん。それで先生に連絡用紙を届けてくれって頼まれて、今天宮くんの家に居るんだ。看病していたら遅くなっちゃって……。悪いんだけど、今日はご飯作れそうにないの」
母『それは全然大丈夫。でも困ったわね。私も今日は残業が入っちゃって、迎えに行けそうにないのよ。だからね、今日は朔夜くんの家に泊まらせてもらえない?』
透夏「ええ!?」
母の突拍子もない申し出に思わず大きな声を出してしまう。
透夏「な、なんでそんな話に!?」
母『だって最近変質者が出たって聞いたもの。女の子が一人で暗い場所を歩くのは危ないわ』
透夏「だ、だからって泊まるとか!」
母『いいじゃない。あなた達付き合っているんだし。明日はお休みなんだし。今から帰らせるよりも、その方が安心よ』
透夏「それは、そうなんだけど……」
気まずいどころの騒ぎじゃなくて、言葉に詰まってしまう。
母『……あなた、何か悩んでるんでしょ? しかも、朔夜くん絡みで』
透夏「……な、なんで?」
母『親舐めるんじゃないわよ。昨日のあなた、どう見てもおかしかったじゃない』
いきなり言い当てられて息を飲む。
母『もし、お互いに伝えておかなきゃいけないことがあるのなら、ちゃんと聞いてあげなさい。判断するのはそれからでも遅くないのよ』
透夏「……え?」
母『話をしないで後悔なんてしてほしくないの』
母は優し気な声色で続ける。
母『お母さんもお父さんと、昔いろいろあってね。……ほらあの人、顔にでなかったじゃない? だから私が勘違いしてすれ違っちゃった時があったのよ。しかもお父さん、結構モテたから一時期浮気されているかもなんて思っちゃってね』
透夏「そうなんだ……」
自分の知らない両親の話だが、今の自分と朔夜との関係性に似ていて驚く。
透夏「……ねえ、お母さん」
母『なあに?』
透夏「もしもお父さんが浮気していたら、しかも自分の方が浮気相手かもしれないと思ったら、どうした?」
母『そうねぇ……』
母は悩むように少しだけ間を開けた。
母『それはまず一発かますわね』
透夏「へ?」
思ってもない回答がとんできて、面食らう透夏。
母は気にせず続けていく。
母『そりゃあそうでしょ。黙っていたのならなおさら悪いわ。その悪さに対する報復から入るわね。その後、詳しく話を聞くわ。なんで相手がいると話さなかったのか。どうしてそんなことをしたのか。それらを聞いて、自分が納得できる理由じゃなかったら、きっぱり別れる。だって、二又なんてする人と一緒になっても、ろくなことにはならないの』
透夏「別れる……か」
ぼろくそにいう母に苦笑いがこぼれる。
そして別れるというワードに胸が痛んだ。