スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!

 ○学校・昇降口の見える廊下の角(次の日の放課後)

 透夏「……」


 透夏は、昇降口(しょうこうぐち)を通っていく生徒たちを監視(かんし)していた。
 廊下を通っていく生徒が困惑(こんわく)した表情で透夏を見ているが、気にならないほど集中している。


 透夏(早く天宮(あまみや)先輩を捕まえて、口止めしたいのに……なんでこんなに一人にならないの!?)



 今日一日、休み時間のたびに朔夜(さくや)に話しかけるタイミングを見計らっていた。
 けれどいつでも朔夜の周りには人だかりがあったので、タイミングを逃し続けていた。


 透夏(もう放課後なんですけど!?)


 こうなれば仕方がないと、朔夜が帰るタイミングを見計らって待ち伏せすることにした。

 と、突然後ろから手が伸びてきて、近くの教室に引きずり込まれる。


 透夏「!?」


 咄嗟のことにつぶった目を開けると、朔夜の姿があった。


 透夏「あ、天宮先輩……」


 ニコリと笑っているが、なんだか怖い雰囲気に逃げ腰になる。


 朔夜「ねえあんた、今日ずっとオレを見てたよね? どういうつもり?」
 透夏「!」

 透夏(ば、ばれてる……!)


 ギクリとしながらも目を反らす。


 透夏「え、ええとですね。これは、その」
 朔夜「……」

 透夏「え、っとその、違うんです。あああ、あの、あなたを張っていたのは、その昨日の……」
 朔夜「……ぶ」

 透夏「え?」
 朔夜「ふ、あははは。ドモりすぎ」
 透夏「っ」


 透夏の挙動不審(きょどうふしん)っぷりに噴き出した朔夜。
 ひとしきり笑い終わると涙を拭い、透夏へと視線を向ける。


 朔夜「オレさ、昨日あんたに会ったよな? でも不思議。この高校はバイト禁止だったと思ったけど?」
 透夏「! そう、それで、その」
 朔夜「はいはい。あんたもその件で付きまとってたんだろ? 大方、口止め……ってところか?」


 全てお見通しだった。


 透夏「うぅ、そうです。……バレてたんですね」
 朔夜「そりゃ、あんだけ熱い視線を送られたら気がつくだろ」

 透夏「うっ。す、すみません……。でも誓って! 不埒(ふらち)な感情から見ていたわけではないので! パン屋のことだけ口外しないと約束していただきたいだけなので!」


 透夏の言葉に少しだけ目を見開く朔夜。


 朔夜「……ふーん? 秘密に、ねえ?」
 透夏「そうです。……ダメ、ですか?」

 朔夜「うーん。まあいいよ」
 透夏「本当ですか!?」


 朔夜の返事に目を輝かせる透夏。


 透夏(中身まで王子様みたい!)


 やはり見た目通り、紳士的な人なのだと思った。


 透夏「ありが 朔夜「ただし、条件がある」」
 透夏「じょ、条件?」


 お礼を遮られて顔を上げると、朔夜は黒い笑みをこぼしていた。
 どうみても透夏にとってよい条件ではなさそうで、顔が引きつった。


 透夏(なんだろう……。なんだか嫌な予感がする)


 朔夜「そう。水藤さんの秘密を守る代わりに……」
 透夏(ごくっ)

 朔夜「オレと付き合ってよ」
 透夏「なっ……!」


 透夏(なんでーーー!?)


 あまりに予想外の答えが返ってきて、固まってしまう。
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