スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
朔夜「ちょうど透夏に雪との関係について話していたんだ。……大事なところで雪が来て、まだ言えてないことばっかだがな」
雪「あ、ほんと? ならちょうどよかった。どうせ朔夜だけじゃ本命に奥手すぎてやんわりとしか伝えられないだろうな~って思ってたところだから」
朔夜「はあ? んなことないだろうが」
雪「本当の事じゃん? 『雪のせいで透夏との関係が拗れた』~って泣きついてきたくせに」
朔夜「誰が泣きついた! 誰がっ!!」
雪の言葉に顔を赤くして怒る朔夜だったが、肝心の雪は素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。
雪「ま、朔夜は放っておいて話を戻すけど、あなた……ええと、透夏ちゃん、でいいのかな?」
透夏「あ、は、はい。水藤透夏、です」
雪「へえ、きれいな名前ね! 透夏ちゃんは朔夜からどんなふうに聞いているの?」
透夏「え、えっと……」
朔夜に聞いた話をそのまま雪に聞かせる。
雪「ふ~ん。なるほどね。まだそこなの。本命がいるならちゃんと初めに言っておけば、こんなことにならなかったのにね」
朔夜を責める様に睨む雪。
朔夜「雪には言われたくないね」
雪「はあ~!?」
二人の間に険悪なムードが漂う。
透夏「え、っと。二人は許嫁だって言ってたけど……その、仲が悪い、のかな?」
朔夜「悪いって言うか……利用し合っている関係だからさ。迷惑かけたりかけられたり、だな」
雪「そうだねー。私もね、家のことがなかったらこいつと許嫁になんてならなかったと思うかな」
透夏「と、いうと?」
雪「え? だってわたし、小さいころから一筋で、他の男に興味なかったから。……って、それもまだ言ってなかったの!?」
朔夜「……だからそれを言おうとしたら雪が来たんだ!」
雪「人のせいにするの、よくないとおもうな~」
朔夜「こいつ……」
朔夜は額に青筋を浮かべた。
放っておくとすぐに脱線する二人に、透夏は慌てて話を戻す。
透夏「他の男に興味がない……って?」
雪「ああ、そうそう! わたしはね、小さいころからボディーガードの誠二郎しか見ていないのよ!」
透夏「誠二郎?」
雪「うん! この間学校で会ったときに車の横にいたボディーガードよ!」
そう言えばこの間の騒動のとき、校門の近くに黒い大きな車が止まっていた気がする。
そのときにいただろうか、と首をひねるが全く覚えていない。
透夏(あのときは衝撃が大きくて、天宮くんが連れられて行く背中しか見ていなかったからなぁ)
朔夜「ま、そう言うことだ。こいつには誠二郎という本命が、オレには透夏という本命がいる。小さいころから、ずっとな。だが問題があってな」
透夏「それがさっき言ってた話?」
フリーだと縁談を持ちかけられるという話を思いだす。
朔夜「そういうこと。まあ要するに、厄介ごとを避けるために、お互いを利用しているっていうだけの関係性なんだ」
雪「そーそー。あ、ちなみに。契約関係になろうって誘ったのはわたしなんだぁ。どっちかっていうとわたしのお父様がいい相手を見つけてやるからってうるさくってさ~。朔夜だったらまあ、小さいころからの知り合いだし、ちょうどいいかなって」
透夏「そ、そうだったんだ……」
朔夜は透夏と家族になりたくて女性関係を作るつもりはなく、雪は誠二郎しか見ていない。
家のしがらみなどもある中で、お互いを利用すれば変な相手を付けられるよりマシだったのだそうだ。
二人の話は嘘とは思えなかった。
雪「目論見通り、変な相手とのお見合いとかはなかったんだけど、変な相手に絡まれるとかはあったからね。そういうときはお互いに守り合うみたいな、バリケード役っていえばいいかな。そんな付き合い方だったのよね」
透夏「じゃあもしかして、あのとき天宮くんに抱き着いていたのって……」
雪「そうそう! 朔夜がまた女性に囲まれて大変なのかなって思ってさ。牽制しちゃった! それで変な風に拗れちゃったんだよね。ごめんねぇ」
雪は申し訳なさそうに眉を下げ、手を合わせた。
透夏(そうだったんだ……)
あの日の雪の行動が分かってきた。
透夏のことを朔夜に群がる相手だと思っていたのだ。
皆が皆、勘違いをしていたことに気がつき、ほっとする。
雪「全く。朔夜が透夏ちゃんの写真とか見せておいてくれないからさ~!」
朔夜「オレのせいかよ」
雪「そりゃそうでしょ? 今までお世話になったし、最後に恩返ししてあげないとなって、わたしの思いやりまで台無しにしてくれたんだし」
透夏「え、最後?」
言葉の意味が理解できずに首を傾げると、雪は満面の笑みになる。
雪「そうなの~! この間ようやくお父様に誠二郎との結婚を認めてもらえたから、朔夜との婚約関係を終わらせようと思ってね!」
透夏「え、ええ!?」
予想外の話に目をむく透夏だったが、雪の勢いは止まらない。
雪「今日はね、その為の書類を届けに来たの! そうだ! 誠二郎も下で待っているから、透夏ちゃんに挨拶してもらいたいな! ねえ、朔夜。呼んでもいい?」
朔夜「止めても聞かねぇだろ」
雪「まあね! じゃ、ちょっと待ってて!」
雪はそう言うとすぐに電話をし始めた。