スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
数分後、誠二郎が部屋にやってくる。
誠二郎「お呼びで? お嬢様」
透夏「でっ……!」
入ってきたのは筋骨隆々のサングラス&スーツの長身男性。
「でっか」という言葉は飲み込んだが、面くらいすぎて言葉が出てこない。
雪「うん! こちら、朔夜の本命の透夏ちゃん!」
誠二郎「そうでしたか。私はお嬢様の元護衛の上総誠二郎と申します」
透夏「あ、ど、どうも……」
見た目に反して丁寧な対応でどぎまぎする。
サングラスを取ると、意外にも爽やか系の顔をしていた。
雪「見てもらったら分かると思うけど、わたしはこのくらい筋肉がある人が好みなの~!」
透夏「そ、そうなんだ」
透夏(こういうタイプが好きなら天宮くんに目が向かなかったのも納得かも……)
恥ずかしそうにキャーという雪に圧倒されながらも、なんだかとても納得してしまった。
朔夜「それにしても、ずいぶんと急だったな。前まではなかなか難航しているって言っていたのに」
雪「まあね。お父様なかなか認めてくれないからさ、既成事実を作っちゃった!」
透夏「ええええ!? き、既成事実!?」
既成事実と聞いて子供関係の予想をした、透夏は驚き過ぎて声を上げてしまう。
雪「そう! 外堀を埋めまくって、誠二郎にも経験と実績を積ませて、知り合いに頼み込んで養子にしてもらったの! 家柄と実力を見せれば認められるかなって! で、頼み込んでいた家がついに折れてくれてさ~。ほんと大変だったな~。でも諦めるなんて選択肢なかったからね! がんばったよ~!」
透夏「あ……既成事実って、そういう……」
意外と力業の既成事実だった。
ちらりと誠二郎を見ると、幸せそうに雪を見ていて、二人の世界になっている。
透夏(……本当に幸せそうだなぁ)
なんだかその光景が羨ましくなってきた。
透夏「じゃあもう天宮くんとは……」
雪「うん、本当に何もないよ! だから安心してね」
透夏「その……婚約解消の件は、大丈夫なの?」
雪「あはは、大丈夫だよ。朔夜のご両親にははじめから説明してあるし、むしろ協力してもらっているくらいだし。賠償金なんかの清算も、ちゃんと用意しているから」
透夏「そうなんだ……」
なんだかすごい話で理解が追いついていないが、朔夜との関係が疑っていたようなものでなくて安心する。
安心したらなんだか足に力が入らなくなってよろけてしまう。
透夏「……あ」
朔夜「大丈夫か?」
透夏「う、うん」
よろけた所を朔夜に受け止められ、久しぶりに安心して朔夜の体温を感じる。
思わず朔夜の胸に頬を寄せてしまった。
朔夜「っ! と、透夏」
透夏「え、あっ!? ご、ごめん」
無意識だった透夏、一気に赤面する。
雪「あらあらあら~。これはわたしたちジャマみたいね~。わたしも誠二郎しか見てこなかったけど、朔夜も相当よね。わたしといるときも透夏ちゃんの話しかしなかったし」
朔夜「うるさいな。悪いかよ」
雪「悪いなんて言ってないじゃない。ま、顔合わせも済んだし、邪魔者は早めに退散しましょうか」
朔夜「さっさと行け」
しっしと追い出すジェスチャーをする朔夜に少しむっとした雪は、突然いいことを思いついたという顔になる。
雪「そうだ! 透夏ちゃん、連絡先交換してくれない? わたし女の子の友達ってあんまりいなかったからさ。……それに、もし朔夜に泣かされたら頼れる人は多い方がいいでしょ?」
朔夜「泣かせねぇよ!」
雪「もう一度泣かせたのを忘れた?」
朔夜「それはあんたが変にひっかきまわしたからだろ!」
雪「はあー!? わたしのせいっていうつもり? そもそもあなたが隠してなかったらこうはならなかったじゃない! 朔夜はいつも詰めが甘いのよ!」
朔夜「ああ!?」
誠二郎・透夏「「ま、まあまあ」」
ケンカに発展した朔夜と雪を引きはがす。
これ以上一緒にいると余計にケンカになると思った透夏は連絡先を交換することにした。