スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
透夏「あっ」
校門まで行くと、朔夜が壁を背にして待っているのに気がつく。
朔夜には、彰に告白されたこと、そして今日返事をすることを話していた。
朔夜も透夏に気がつくと、軽く手をあげる。
朔夜「答えられた?」
透夏「うん。ちゃんと断ったよ」
朔夜「そっか。がんばったな」
くしゃりと頭を撫でられて、締めた涙腺がゆるくなる。
朔夜「……じゃ、行くか」
透夏「うん」
手を繋いで、帰り道を並んで歩く。
朔夜「……少し間違えていたら、透夏はあいつの彼女になっていたのかな」
ふと朔夜がぽつりと零した。
見上げた朔夜は、不安そうな顔をしていた。
朔夜「やっぱり、早めにこっちに帰ってきて、よかった。透夏の魅力は、見ている人は気がつくから」
透夏「魅力なんて、あるのかな」
朔夜「あるよ。そう言う意味ではあいつも見る目はあったな。透夏に痕をつけたのは許せないけど」
透夏「痕?」
首を傾げた透夏に、朔夜はふくれっ面になる。
朔夜「首の後ろ。キスマつけられてた」
透夏「え、ええ!? な、なんのこと!?」
身に覚えのないことを言われて驚きの顔になる透夏。
透夏「そんな事実なんてないはずだけど!?」
朔夜「……雨の日に、髪の間から見えてたけど」
さらにブスっとする朔夜に、記憶を辿ってみる。
透夏「――あっ!」
透夏には思い当たる節があった。
朔夜「あるんじゃん」
透夏「違う違う違う!! まって、天宮くんのいうそれは蚊に刺された跡!!」
朔夜「蚊?」
透夏「そう! キ、キキ、キスマークなわけないよ!」
思い当たる節とは夕方の公園で話している時に、ちょうど首の後ろを蚊に刺されたことだった。
どうやらとんでもない勘違いをされていたらしい。
透夏(だから急に不機嫌になって、あんなこと……)
雨の日に朔夜にされたことを思いだして顔に熱が集まる。
納得はしたけれど、恥ずかしいモノは恥ずかしい。
朔夜「……本当?」
朔夜はなおも疑いの眼。
透夏「本当だって! 何ならまだポッコリと腫れた跡、というか、掻きむしっちゃって色素沈着したんだから!」
朔夜「ふーん? 見せて」
透夏「え、あ、うん」
透夏の首裏の髪をかき分ける朔夜。
そこには明らかに腫れた跡があった。
朔夜「本当だ。確かに虫刺されの跡だね」
透夏「でしょ!? ていうか私、付き合ってもない人に触れるのを許すような人間じゃないんですけど!?」
そんなことを疑われているとは思っていなかったので心外だという視線を送る。
朔夜「それもそうか。……なら、その肌に初めて痕をつけたのはオレってことだな」
透夏「なっ!!」
朔夜「なんだ。じゃあ、お互いに勘違いしていたわけか。やっぱり、ちゃんと話をしないとな」
明らかに機嫌がよくなった朔夜に対して、透夏は再びあの時のことを思いだして茹でタコ状態に。
朔夜「……ね。もう一回つけていい?」
透夏「え?」
朔夜「キスマーク」
透夏「!?」
朔夜から妙な色気が立ち上る。
朔夜「だってオレが付けたの、もう消えてるし。ついてれば変な虫も寄ってこないでしょ? ……何なら、透夏もつけてくれていいからさ」
透夏「っ結構です!!」
くらくらするもきっぱりと断る透夏に、朔夜は笑う。
朔夜「ははっ! まだ刺激が強かったか」
透夏「もう!」
透夏の頭をポンポンとする朔夜は、すっかり機嫌が治っていた。