スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!


 透夏「あっ、そう言えば天宮くん」
 朔夜「朔夜」

 透夏「え?」
 朔夜「朔夜って呼んでくれないの? あの時みたいに」

 透夏「あの時……?」
 朔夜「看病してくれた朝、そう呼んだろ? オレのこと」

 透夏「!」


 寝ぼけた透夏は確かに朔夜と呼んでいた。


 透夏(覚えてたんだ)

 朔夜「呼んでよ。朔夜って」
 透夏「……」


 ちらりと朔夜を見れば、期待(きたい)のつまった視線が向けられている。


 透夏「…………さくや、くん」
 朔夜「うん」


 恥ずかしながらも名前で呼ぶと、とても幸せそうにほほえまれる。


 透夏(こんなことで、そんなに嬉しそうな顔するんだ)


 朔夜の反応に、キュウっと心臓が締め付けられる。


 透夏(……ああ、好きだなぁ)


 その気持ちが次から次に()いてくる。
 自分が自分じゃないみたいだった。


 朔夜「それで、どうしたの?」
 透夏「あ、うん。その……(ゆき)ちゃんの件なんだけどね。朔夜くんの家は大丈夫なの? ほら、婚約がなかったことになったんでしょ? なにか問題とか……」

 朔夜「ああ、そのことか。それは心配しなくていい。あいつのことは親も承認済みだったって言っただろ?」
 透夏「ああ、そう言えばそんなこと言っていたような?」

 朔夜「雪の家とは家族ぐるみの付き合いでな。両親が海外に言っている時は市嶋(いちじま)家で預かってもらっていたんだ。だから両親からしてみれば、雪には恩がある。それで協力していたんだよ」
 透夏「預かってもらっていた、って……雪ちゃんと一緒に暮らしていたってこと?」

 朔夜「まあ二月くらいの間だったけどな」
 透夏「そうなんだ……」


 透夏は少しだけ(ふく)れた。


 透夏「私だって小さいころに会っていたのに、なんだか(くや)しいな……」
 朔夜「なに? 嫉妬(しっと)してくれてるの? ……可愛い」

 透夏「! ちがっ…………そうかも」
 朔夜「!」


 こんなところで意地(いじ)を張っても意味がないと思った透夏が急に素直(すなお)になると、今度は朔夜が赤面していく。


 朔夜「急に素直になられると、照れるな。……でも妬いてくれるの、嬉しい。オレのこと、好きになってくれたみたいで」


 透夏の髪をさらりと掬い上げて甘い視線を送る朔夜。


 朔夜「オレ、もう透夏なしで生きていける気がしない。透夏の真っ直ぐな心も、振りむいた顔も、その髪も、少し面倒(めんどう)くさいところも、一人で背負(せお)いがちなところも……全部好きだ」

 朔夜「いいところも悪いところも、全部好き。……だからオレのいいところも悪いところも、受け入れてほしい。オレは……そのくらい本気だと、知っていてくれ」


 髪を撫でていた手が(あご)へと伝い、上をむかされる。


 朔夜「今はまだオレの好きの方が大きいとしても、いずれもっと好きにさせてやるから」


 そう言って笑った朔夜は意地悪(いじわる)な顔をしていた。
 けれどとても優しいまなざしで、キュンとしてしまう。


 透夏は自然と目を閉じる。
 ふっと笑った気配(けはい)がすると、(くちびる)に暖かな感触が降りてくる。

 恥ずかしいし、心臓が壊れそうだけれど。
 それでももう離れたくないと心が訴えてくる。

 何度も、お互いの熱を分け合うようにキスをした。


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