スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
朔夜「という訳だ。と言われてもな」
雪「なーに? 二人で行きたかったとか~?」
朔夜「そりゃあ透夏にとって初めての体験だって聞いたらな。譲りたくねぇだろ」
雪「あらまぁ。ずいぶんと素直な気持ちを言うようになったものね」
朔夜の言葉に目を見張る雪だったが、すぐにニヤリとした顔になる。
雪「まあでも、わたしだって友達と遊びたかったから、譲りたくないもの。二人っきりじゃなくて残念でした~」
朔夜「……くそ腹立つな」
二人のやり取りに苦笑いをこぼしていると、誠二郎に話しかけられる。
誠二郎「お嬢様が申し訳ありません」
透夏「あ、いえ。全然! 私も友達と遊んでみたかったので!」
誠二郎「そう言っていただけると、助かります。……あの二人はずっとあんな調子なので」
透夏(そう言えばこの人、小さいころから雪ちゃんの家に仕えていたんだっけ)
ということは小さいころの二人を知っている人間ということになる。
興味が沸いた透夏は聞いてみることにした。
透夏「小さいころの二人って、どんな感じだったんですか?」
誠二郎「そうですね……。今と同じく顔を合わせれば言い合いばかりでしたよ」
透夏「本当に今と変わらないんだ……」
誠二郎「そうですね。……ただ」
誠二郎の二人を見つめる目はとても優しいものだった。
誠二郎「最近の朔夜様は本当に柔らかい顔をされるようになりました。……家がごたついていたころは、すべてを受け付けないという雰囲気をお持ちでしたから」
透夏「朔夜くんが……?」
高校での朔夜は基本的に王子様スマイルをしているため想像がつかなかった。
誠二郎「ええ。それが透夏様。貴方様とであってから変わられた。お嬢様との言い合いが復活したのも、それからですね。お嬢様も友人と呼べる方は朔夜様くらいでしたから、嬉しかったのでしょう。随分と明るく、楽しそうになられました」
透夏「そうだったんだ……」
誠二郎「ええ。ですから、私からもお礼を申し上げたい。そして出来れば、今後もお嬢様、そして朔夜様と仲良くしていただけたらと」
誠二郎は礼儀正しく腰を折った。
透夏「……それは、私からもお願いしたいことです」
透夏は朔夜と雪には感謝をしていた。
透夏(だって、私の方が変えてもらってるもん)
朔夜がいなかったら、まだ父のことを引きずっていただろう。
雪のような友達ができなければ、こういう場で思い出を作れなかっただろう。
だから、二人とはずっと一緒にいたいと思っていた。
透夏「私なんかに二人はもったいないと思うけど、それでも傍に居たい。だから傍にいても恥ずかしくない人になれるよう、努力したい。そう思ってます」
誠二郎は静かにほほえんだ。
透夏「あ、でも。私は、あなたとも仲良くしたいです」
誠二郎「自分と?」
透夏「はい。だって、今の二人があるのは誠二郎さんがずっと傍にいてくれたからだと思うから」
誠二郎「……そう言ってもらえたのは、初めてですね。ありがとうございます」
笑い合う透夏と誠二郎。
そこに透夏の肩を抱くように朔夜が乱入する。
朔夜「なーにやってんだよ誠二郎。ダメだぞ。透夏を口説くの、禁止な」
透夏「口説っ……!?」
雪「口説いてないよ。誠二郎はこれが素なの~」
誠二郎「あはは。では行きましょうか」
朔夜は誠二郎を小突きながら進んでいく。
その顔は楽しそうで、透夏も嬉しくなる。
雪「透夏ちゃん、愛されているね」
透夏「え?」
雪「朔夜ったら、嫉妬心丸出しで、まあ……」
透夏「!」
その光景をみていたら、雪にこそっと耳打ちされる。
雪「さっきからずっと誠二郎まで警戒しててさ」
透夏「そ、そうなの?」
雪「そうよー。あいつ嫉妬深いみたいだから、がんばってね? さ、ほら。早く行こう?」
赤面しながらも雪に連れていかれる。