スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
○観覧車内
ゆっくりと昇りだす観覧車に、向き合って座る二人。
この狭い室内に朔夜と二人きりという事実が急に恥ずかしくなり、下を向いてしまう。
透夏「……」
朔夜「……」
透夏「……なんだか、変に緊張しちゃうね」
朔夜「そうだな」
一拍おいてから、朔夜が口を開いた。
朔夜「でも外見てみて。きれいだ」
言われて外を見ると、パレードが始まったところだった。
海の近くにあるので、パークの色とりどりの光りが夜の水面に反射して美しいことに気がつく。
透夏「……うわあ! キレイ!」
透夏は先ほどの緊張すら忘れて、その光景にくぎ付けになった。
外はキラキラしていて、皆楽しそうで、この時間がとても満たされたものだと感じる。
そんな透夏を見て、朔夜も安心したようにほほえんだ。
朔夜「良かった。楽しんでもらえて。オレ、観覧車って好きなんだよな」
透夏「そうなの? あっ、非日常的な感じだから?」
朔夜「それもあるが……どっちかっていうと、小さいころ家族三人で観覧車に乗った記憶があってさ。だからかな。オレにとってここの観覧車は、数少ない家族の思い出なんだよな」
透夏「あ……」
昼間に雪に聞いた話だ。
祖父と父の諍いから、こじれにこじれてしまった家族の仲。
それでも楽しい思い出として残っているのがここの遊園地だったのだ。
朔夜「だから、今日ここに来れて、嬉しい。透夏と一緒に乗れてよかった」
朔夜は飛び切り優しくほほえんだ。
大切な思い出の中に透夏が入っていると言われた気がして、胸がいっぱいになる。
透夏(……いつも朔夜くんにばっかり、気持ちを打ち明けさせてるよね)
それほど強く思ってくれている朔夜に、自分は気持ちをはっきりと伝えていない。
いつかは伝えたいと思っていたけれど、改まると恥ずかしくて話せなかった気持ちを、今この場でなら伝えられる気がした。
透夏「……朔夜くん」
朔夜「ん?」
真っ直ぐに朔夜を見つめる透夏。
その顔は赤くなり、潤んでいるが、消して反らしはしない。
透夏「私ね……、朔夜くんが好き」
朔夜「っ」
透夏「好きなの。……今まで言えなかったんだけど、でもっ……んっ!」
続きを口にしようとすると、朔夜の唇が触れて言葉にならない。
愛おしい、愛おしいと伝わる様な長いキス。
口が離れるころにはお互いに上気した表情になっているが、朔夜は退かない。
鼻先が触れそうな距離で見つめ合う。
朔夜「……オレ、強欲だよ。透夏のことになると、自制が効かない。それでも……オレを求めてくれる?」
透夏の頬を撫でる朔夜の指が、答えを急かすように唇に触れる。
その感覚に震えながら、それでも透夏も頷いてみせた。
透夏「……うん。朔夜くんになら、全部あげられる。だから……あなたのこと、全部ほしいの」
朔夜「……とっくに、全部あんたのもんだよ」
ふっと優しく笑って、再び口づけを交わす。
そのとき、朔夜の後ろの窓から、流れ星の光を見た。
星と、外の光を受けながら、口づけを交わす。
その中で透夏は、この時が永遠に続いてほしいと願ったのだった。