スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!

 ○透夏の家
 朔夜がフランスへと向かって一週間くらい経ったとき、お父さんが一命を取りとめて、目を覚ましたという連絡が来た。


 透夏「よかった……!」


 張っていた力が抜ける。
 朔夜の話によるとこれからまた検査やリハビリが始まるため、しばらく入院生活が続くらしい。


 透夏は祝いの言葉を送り、そして励ましの言葉を送った。


 それからの日々は、あっという間に過ぎていった。
 透夏は透夏で、忙しさで寂しさを埋める様に動き回っていた。


 (ダイジェストで朔夜のいない日々を書く)

 ・夏休みの宿題をしている場面
 ・スイーツづくりの研究をしている場面
 ・雪たちと一緒にいる場面
 ・他の学校の見学に行く場面

 など



 朔夜が頑張っていると思えば、自分も頑張れるから。



 そして――……夏休み最後の日。
 透夏の誕生日、そして父の命日(めいにち)がやってきた。




 ○父の墓前
 黒いワンピースを着て、お墓に祈りをささげる透夏と母。
 八月の強い日差しの中、汗を垂らして祈り続ける。


 透夏(お父さん、来たよ……。もう八年になるね)


 毎日仏壇(ぶつだん)に祈ってはいるが、こうしてお墓に来ると聞かせたいことがいろいろと出てくる。


 透夏(朔夜くんのお父さんもずいぶんよくなったって)


 最近の話題と言えば、もっぱら朔夜について。
 父に話すと落ち付くので、聞いてもらっている。


 透夏(でも……やっぱり、少し寂しいな)


 父もおらず、朔夜もいない。

 少し前までは当たり前の光景だったはずなのに、今となっては寂しさが押し寄せてくる。
 そんな中、この日がやってきた。

 だからいつもよりセンチメンタルになっているのだ。


 母「――そろそろ行きましょうか」
 透夏「うん」


 母と肩を並べて帰路(きろ)につく。


 母「もう夏も終わるわね。……透夏、遅くなったけど、誕生日おめでとう。十六年も一緒にいられて嬉しいわ」
 透夏「お母さん」

 母「帰ったらちゃんと祝いましょうね」
 透夏「……うん」


 母も寂しいはずなのにこうして透夏を祝って、優しい言葉をかけてくれる。それを素直に受け取れることが嬉しい。


 朔夜に出会うまでは、母は自分を恨んでいるだろうと勝手に思っていた。
 透夏の誕生日も、きっと祝う気分にもならないだろうと。

 けれどそれは勘違いだと気が付けた。


 透夏(それもこれも、朔夜くんのおかげだから……)


 夏の空を見上げる。


 透夏(朔夜くん、今どうしているのかな)


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