スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
家に帰ると、ケーキの準備をしながら母が口を開いた。
母「そう言えば、朔夜くんはどうなの? まだこっちには来れないって?」
透夏「うん。今はまだリハビリを頑張っているみたい」
母「そう。大変ね……。でも透夏、あなたも寂しいのならちゃんと伝えたほうがいいわよ?」
透夏「え?」
母「だってあなた、ずっとそんな顔しているんだもの」
母に言われて自分の顔をさする。
けれどどんな顔をしているかは分からなかった。
母「朔夜くんが忙しいのは私だって分かっているけど、遠距離だからこそ、思ったことはきちんと話しなさい」
透夏「でも……それで重荷になったら、イヤだし」
母は呆れた表情でため息をついた。
母「そういう頑固なところ、あの人にそっくりね。本音を伝えられて重荷に思う人だったら、そもそも結婚相手に選んでないわ。透夏だってそうじゃないの?」
透夏「……そうだけど」
母のいう通り、朔夜は透夏の気持ちを伝えられたからと言って重荷に思うことなどないのだろう。
透夏もそれは分かっていたし、そうだったからこそ好きになれた。
母「伝えるのが恥ずかしいとか、そう言う気持ちも分かる。でも伝えられるときに伝えられないのは苦しいし、相手も自分への気持ちを疑ってしまうかもしれない。だから伝えられるときは伝えたほうがいいわ。特に、若いうちなんてね」
透夏「そう言うもの?」
母「そうよー?」
透夏「……」
会いたいのは変わらない。でも彼は今忙しい時期だから、自分の気持ちを伝えられたら迷惑だと思っていた。
けれど会えないからこそ気持ちを伝えるのが大切なのだとしたら。
透夏(……一度くらい、伝えてみようかな)
会えるわけではなくても、自分の素直な気持ちを伝えてみよう。
そう決意し、アプリをつけた。
透夏【もう夏休みが終わるね。……会いたいな】
忙しいだろうから、いつでも見られるように文だけを送った。
見たときに朔夜も透夏のことを思ってくれることを願って。