スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
ケーキを食べ終わると、外は既に薄暗くなってきていた。
母との会話を楽しんでいると、スマホに通知が入った。
画面を見ると、
透夏「お母さん! ごめん、ちょっと出てくる!」
そう言い残して透夏はすぐに駆けだした。
走って、走って、宵闇に沈みゆく街中をかけていく。
そうしてたどり着いた場所は――。
○遊園地のゲート前
ついたのはあの日、朔夜と共に行った遊園地だった。
ゲートの前に、大きな観覧車を見上げている人のシルエットがある。
透夏「はあ、はあ!」
肩で息をしながらも、その人の元へと進んでいく。
偶然にも、他の人の姿はなかった。ほとんどの人は遊園地に入り遊んでいるのだろう。
薄暗かった周囲は既に闇に沈み、遊園地の煌びやかな光がその人の姿を浮かび上がらせていた。
透夏「……朔夜、くん」
透夏の声にゆっくりと影が振り返る。
朔夜「――透夏」
たった一月程度しか離れていないのに、とても懐かしく感じた。
変わらない眼差し、変わらない声色。そのすべてを求めて止まない。
透夏はこらえきれず走り出した。
思い切り、ぎゅうっと抱きしめる。
透夏の背にも腕が回され、存在を確かめ合うように抱きしめ合った。
透夏「朔夜くんっ……」
朔夜「透夏……会いたかった」
朔夜の香り、体温、感触、音、そのすべてを感じて、涙がこみあがる。
好きだ、と全身が叫んでいるのだ。
透夏「私も……会いたかった」
朔夜「うん。メールありがとう。会いたいって言ってくれて、嬉しかった」
少し体を離し、顔を見る。
朔夜も透夏を見つめていた。
透夏「どうして、ここに?」
朔夜「親父の体調もだいぶ良くなったからさ、一時的に戻って来たんだ。……どうしても、直接誕生日を祝いたくて」
透夏「……覚えていてくれたんだ」
朔夜「当然だろ」
朔夜は今忙しいから忘れてしまっていると思っていた。
覚えていても、帰って来てくれるなんて思ってもいなかった。
けれど――。
朔夜「あんたを思わない日なんて、なかったよ」
朔夜はそう言うと、抱き合っていた体を離した。
朔夜「透夏、十六歳の誕生日、おめでとう。これを受け取ってほしい」
懐から小さな箱を取り出す朔夜。
なんだろうと受け取り、開けると
透夏「――これっ!」
入っていたのはシルバーの指輪だった。
思わず朔夜の顔を見ると、照れくさそうに頬を掻いている。
朔夜「早いかなとも思ったんだけど、やっぱり透夏を一人で待たせるのが申し訳なくて……。というか、透夏を一人にしていて、誰かに寄ってこられると、オレが嫌だから……。その」
意を決した朔夜、透夏を真っ直ぐに見つめる。
朔夜「オレ、まだまだ親父の後も継げていない半人前だし、今回みたいに透夏に寂しい思いをさせてしまうかもしれない。それに……もうわかっているだろうけど、オレは周りが呼ぶような、甘い王子様じゃない」
朔夜「それでも……オレは、透夏と共に生きていきたい。だから」
言葉を区切る朔夜。
透夏は後に続く言葉を待つ。
朔夜「……一人前の男になれたら……オレと結婚してほしい。その予約を、させておいてくれないか」
透夏「っ!」
信じられないほどの幸福感が胸を満たす。
言葉が出てこずに、代わりに涙だけが零れ落ちた。
それでも嬉しいと表したくて、衝動のままに朔夜の胸に飛び込む。
朔夜は透夏を受け止めて背中を撫でてくれた。
朔夜「…………返事は?」
透夏「っ、……はい!」
朔夜「ふふ、よかった。……断られたら、どうしようかと」
透夏「断るわけ、ないじゃない!」
朔夜「そうだよな。本当によかった……」
安堵しきった朔夜と目が合い、思わず笑ってしまう。
朔夜「笑うなよ……。これでも緊張で死にそうだったんだから」
透夏「ふふ、ごめんなさい。でも、嬉しい」
朔夜「ん。オレも」
笑い合い、視線が絡むとどちらからともなく唇を重ねた。
朔夜「……幸せだな」
透夏「!」
朔夜の言葉に再び涙腺が緩む。
透夏「私も、幸せ。……あのね」
朔夜「ん?」
透夏「私ね、誰かを幸せにしたいってずっと思ってた。でも……今は誰よりも朔夜くんを幸せにできているのが嬉しいの」
透夏は「誰か」ではなく最愛の人である「朔夜」に幸せだと思ってもらえていることが心の底から嬉しい。
透夏「だから、私を見つけてくれて……私は私でいていいって教えてくれて、ありがとう。こんな私だけど、末永くよろしくね」
幸せの涙が一筋、頬を伝った。
朔夜はそれを優しく拭い、とろけるような幸せそうな笑みを浮かべた。
朔夜「当たり前だ。愛しているよ、透夏」
透夏「……うん。私も、愛してる」
これは私の本心だ。
そしてこの気持ちはきっと、一生変わることも、忘れることもないだろう。
――fin.