スイーツ王子は、お菓子のようには甘くない!
透夏「本当に、とんでもない人につかまっちゃった」
透夏思いだしながらため息。
朔夜「まあそうかっかすんなよ。もっとテキトーに行こうぜ」
透夏「できるかぁ!」
ジトっとした目を向けると、隣に座った朔夜の手元にあるのが数個の菓子パンであることに気がつく。
透夏「……って、先輩お昼それだけですか?」
朔夜「ん? ああ。オレ、一人暮らしだし」
透夏「そうなんですか?」
朔夜「親は海外事業が忙しいからな。オレだけ日本に帰ってきたわけ」
透夏「へえ。お金持ちだからいいものばっかり食べているのかと思ってました。……でも、なんで日本に戻って来たんです?」
朔夜「……なに? 知りたいの?」
朔夜は少し考えて、何かを思いついたニヤニヤ顔で透夏の顔を覗き込んだ。
いきなり顔を近づけられた透夏は反射的に体をのけぞらせる。
透夏「っ! 違う! その、親と離れて一人で日本に来るなんて、辛くないのかなって思っただけで」
朔夜「なーんだ。オレに興味が沸いたのかと思ったのに」
透夏「だから、違うって!」
朔夜「はいはい。……それにしても辛くないか、か。どうだろう、慣れたかな。小さい頃から親は海外飛び回って、オレだけ知人に預けられたりしてたし」
透夏「え……」
透夏ぴたりと動きを止めて眉を下げる。
透夏「……なんか、ごめんなさい。家庭の事情なんて知らないのに、口出したりして」
朔夜「ぷはっ」
透夏「え?」
朔夜「そ、そんなこと……くくく」
突然笑い出した朔夜に戸惑う。
朔夜「あんた、変なところで気を遣うんだな。人のこと散々厄介な人だなんだと言っておいて」
透夏「そ、それは。だって」
朔夜「別に気にしなくてもいいのに、変なの」
口ではそう言うけれど朔夜は少し嬉しそうで、今までの意地の悪そうな笑みとは違う、穏やかな笑みに見惚れてしまう。
朔夜「……んー。あんたになら教えておいてもいいか。オレがこの高校に来たのは目的のためだ」
透夏「目的?」
朔夜「そう。目的。……けどこれ以上は――」
朔夜「有料情報だからね」
透夏「あっ!」
お弁当箱から卵焼きを奪われる。
朔夜「ん! うまいじゃん」
透夏「え。そ、そう?」
朔夜「オレの好きな味だわ。これ、あんたの手作り?」
手作りの弁当を褒められ嬉しそうな表情で頷く透夏。
透夏(確かに今日のはちょっと自信作かも……?)
嬉しそうな様子の透夏を見て、朔夜はニヤリと笑う。
朔夜「っは。ちょろいな」
透夏「あっ! もしかしてからかいました!?」
朔夜「ごめんって。うまかったのは本当」
にらみつけた後そっぽを向く透夏に、朔夜は手を合わせて詫びる。
朔夜「悪かったって」
透夏「思ってないでしょ」
朔夜「思ってるって。だからお詫びに……放課後、デートしようぜ」
透夏「……は?」
透夏(な、なぜーーー!?)