タクシー

今日も、残業だった。


もう、電車は走っていない時間だ。



仕方なく、タクシーを拾うことにした。



何度かタクシーが、目の前を通り過ぎた



が、先客が乗っていた。



それから、時間がどれくらい経っただろうか。



俺は、もう諦めようとしていた。



すると、タクシーが一台、近づいて来た。



もう、夜中の二時だ。







とりあえず、そのタクシーに俺は乗った。



「お客様、どちらまで?」


「自宅までだけれど、多分、道が分からないだろう
から、俺が誘導します」



「承知いたしました」





俺は、いつの間にか眠っていた。


辺りを見回すと見た事のない風景だった。




「運転手さん。ここはどこですか?」



「ご心配なさらないでください」




そして、運転手のその言葉に安心して



俺は、また深い眠りに落ちた。








目が覚めると、そこは見た事のある家の前だった。




「俺の家だ・・・」



その家は、子供の頃、両親と住んでいた家だった。



俺は、タクシーの運転手に料金を払って、家の前に


立った。



俺は、恐る恐るインターホンを鳴らした。



―――ピンポーン。



「今、開けるよ。タカシ」


”どうして、俺の名前を知っているのだろう・・・”



「おかえり。タカシ」



「か、母さん?」


「父さんも、待ってるよ。晩御飯まだでしょ?
それとも、先にお風呂に入るかい?」



「い、いや。お風呂はいいよ。ご飯食べるよ」



「そうかい? 疲れただろ? 今夜は、お前の
好きなサンマだよ」


「そ、そう。ありがとう」







「どうだい? 美味しいかい?」


「美味しいよ。母さん」


「タカシ。ビールでも飲め」


「父さん。ありがとう」






「タカシ。そろそろ寝なさい」


母が、言った。


「お布団ひいてるからね」


「ありがとう。母さん」


「それじゃぁ、お休み。タカシ」


「お休み。母さん。あ、母さん?」


「なに?」


「父さんも母さんも、元気なの?」


「決まってるじゃない。元気だよ。何も
心配しなくていいから、早く寝なさい」



「わかった。お休みなさい」


「お休み」







「お客様、着きましたよ」

それは、運転手の声だった。


「えっ?」


俺は、飛び起きた。


そして、辺りを見回した。


俺の自宅の前だった。



俺は、料金を払って、タクシーを降りた。


「ありがとうございました」


タクシー運転手が、言った。






俺は、家に入って我に返った。


”夢だったのか・・・”



俺は、真っ先に和室へと向かった。



そこにある仏壇には、父さんと母さんの写真があった。




俺は、手を合わせた。




「父さん。母さん。ありがとう。本当に、ありがとう」






































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