《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!

手を差しのべる者

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 ——暗闇に閉ざされた、何も無いひどく狭い部屋だ。
 自分の心臓の鼓動と呼吸音、耳鳴りのような不快な音しか聞こえてこない。

 更には目隠しと猿轡《さるぐつわ》を噛まされ、両手首が背中で縛られている。

 ここは人々の罪を赦す教会ではあれど、同時に多くの聖女たちを預かる寄宿舎のような場所でもある。
 様々な出自事情を抱える少女たちを集団で生活させるなかで、規律を乱す者を更生するなどという大義名分のもとにこの部屋を生み出したのは、聖女たちの指導と監視を牛耳るレイモンド司祭だ。

 強気のユフィリアでさえも、幼い頃からこの懲罰室——という名の独房——には底知れぬ恐怖心を抱いていた。
 懲罰室に入れられるくらいなら、鞭で打たれるほうがよほどマシだとさえ思う。

 農村の親戚の家にいた頃、ユフィリアの寝床は物置の中にあった。
 狭くて散らかっていて、そして一つも窓がない。昼間でも扉を閉めてしまえば真っ暗で、その場所で眠る一人きりの夜が来るのが怖かった。

 この部屋は、残酷にもその頃の記憶を連れてくる。

 けれど入れられてしまったものは仕方がない。いつまで続くかわからぬ果てしない時間を、ただひたすらに耐え抜くだけだ。

 ユフィリアは、ありったけの想像力を働かせる。
 美しい楽曲を頭の中で奏でてみたり、月光の下に輝く柔らかな街の明かりを思い描いてみたり。ポメラの愛らしい顔を撫でる時の、なんとも幸福な感触を思い出してみたり——。

 


 
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