《新作》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!
そっと両手を伸ばしたものの、彼女の苦痛と痛みを想像すれば安易に触れることさえも躊躇われる。
狼狽して言葉を失うレオヴァルトのすぐそばで、床に突っ伏していたレイモンド卿が含み笑いをしながらゆっくりと起き上がった。
「ふっ、安心しろ。この程度の傷、グラシアですぐに治る。それより、よくここがわかったな? 差し詰め聖女の誰かがおまえに密告でもしたのだろうが」
気狂いの戯言など耳に入らなかった。
意を決したレオヴァルトは、痛めつけられたユフィリアの身体を慎重に抱え上げる。
「痛むだろうが、少しの間だけ我慢してくれ」
「ううっ……!」
ユフィリアが苦痛に顔を歪めるのを気遣いながら、扉を出ようとするレオヴァルトをレイモンドが呼び止めた。
「わたしを殴った事を後悔するがよい。口外は自由だ。だが……おまえはわたしに《二つの命の手綱》を握られていると言う事を、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
勝ち誇ったような彼の口調は、レオヴァルトの怒りを逆撫でするものだ。
レイモンドに背を向けたまま立ち止まったその刹那、レオヴァルトは形良い眉をこれでもかと歪めた。
──私とて、こんな暴挙を甘んじて許すものか。あまつさえここは救いを求める者を擁護するはずの教会じゃないか。護るどころかこんな形で傷つけ、痛めつける行為を見捨てておけるはずがない。だが今は、ユフィリアの傷をどうにかするのが先だ……!
湧き上がる怒りを腹の奥に押しやりながら肩越しに目を向け、レオヴァルトが地を這うような低い声色で宣言する。
「貴様こそ覚えておけ。ユフィリアは私の妻になる人だ。貴様は勿論、もう誰にも指一本触れさせはしない」