《新作》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!
 老夫らしき人物が大袈裟な抑揚と身振りをつけて声高に叫んだ。
 天使だと言われ、当人のイザベラは上機嫌だろう。

「いやいや、天使どころか聖都の民の聖母様だよ〜筆頭聖女イザベラ様は」

 飲みかけた水を吹き出しかけた。
 ユフィリアの呆れはピークに達したようだ。よくもこんな歯が浮くようなセリフを軽々しく口にできるものだとユフィリアは苦い顔をする。
 
 ——聖母様の定義があるなら教えて欲しい。
 それがイザベラのことなら、そんな世界、私はいらない。

 イザベラを賞賛する声は尚も続いている。
 ユフィリアが窓辺から見下ろせば、白金色《ブロンド》の髪を風に遊ばせながら微笑む美しい聖女の、凛とした立ち姿があった。

「夜な夜な聖都に現れては民を救うという、あの『月夜の女神』はイザベラ様なのではありませんか?! 周囲の皆がそう噂しておりますのよ」
「ああ、その噂は私も聞いたよ。銀狼に跨って月夜を飛ぶというあの女神様だ。どうやら貧民街に頻繁に現れるというじゃないか」

 豪奢なローブを羽織った小太りの男性が放った言葉には、さすがのユフィリアも驚いてしまう。

 ——《月夜の女神》がイザベラ……?!

 

 
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